派遣社員として働いていて、「有給休暇を取得することができるのだろうか?」と疑問をたれている方は多く存在します。

そもそも派遣社員に「有給休暇が認められるのか?」、認められたとしても「どうやって取得すればいいのか?」そういった疑問をもたれることはある意味当然かもしれません。

なぜなら、有給休暇は法律上認められる権利であっても、使用者たる派遣会社にはその発生要件や取得方法などを労働者に告知する義務は無いため、有給休暇が発生していても労働者に告知していないことがあるからです。また権利が発生していても、知っているかどうかに関わらず2年時効によって消滅してしまいます。

こういったことを知らないがために、有給を取れなかったというのはもったいないことです。有給休暇は、法律に定められた労働者の権利ですので、これをうまく利用しない手はありません。

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この記事では、実際に派遣社員が有給休暇を取得するために必要な実践的な方法を紹介していきます。有給取得の手助けになればと思います。

追記:

「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が成立したことにより労働基準法が改正され、平成31年4月1日から使用者は、年に10日以上の有給休暇がある労働者に、その日数のうちの5日1年以内に時季を指定して与えなければならなくなります。派遣社員でも年に10日以上の有給休暇が発生している場合は対象になります。

いつから取得できるのか

有給休暇は、「雇い入れの日から起算して6ヶ月間継続勤務」し「全所定労働日の8割以上出勤」(労働基準法39条1項)した時点から発生しますので、8割以上の出勤があれば雇い入れの日から6ヶ月経った時点から取得することができます。

日数については、1週間のうちにどれだけ勤務したかによって変わってきますが、この点については後ほど述べます。

有給取得のための大まかな流れ

有給休暇をとるためには、以下のような流れで動くのがわかりやすいかと思います。

  1. 自身に有給休暇が発生しているか法律上の要件を確認する
  2. 有給休暇をとる権利がある旨を派遣会社に伝え、指定した日に休暇をとる
  3. 給与日に有給休暇に指定した日の賃金が支払われているか確認する
  4. 賃金が支払われていなければ、労働基準監督署へ相談に行く

この流れを念頭に置いた上で、有給休暇について詳しくみていきます。

有給休暇の基本的な考え方

有給休暇は、文字通り労働者に有給で与えられる休暇です。

正式には「年次有給休暇」(労働基準法39条)といわれ、法律上の要件を満たせば雇用形態に関わらず法律上当然に有給休暇が発生します。

つまり、雇い主(使用者)が有給休暇を与える権利を持っているわけではなく、あくまで法律上発生する権利なのです。

ですので使用者が労働者に対して有給を「許可しましょう」とか「認めてあげましょう」という態度は、法律的には間違っていることになります。

そして、使用者は労働者の有給取得の申し出があれば原則として拒否することはできません。

ただ、使用者には「事業の正常な運営を妨げる場合」には時季変更権(労働基準法39条5項)というものがあり、労働者が有給を指定した日を変更することができます。

以上が基本的な考え方になります。

派遣社員有給休暇

有給取得のためにチェックすべきこと

有給を取得するために必ずチェックしておくべきことがあります。

いつから有給休暇が発生するか

それは、自身に

有給休暇(年休権)が発生しているのか

ということです。それをチェックするための法律上の要件についてみてみます。

有給休暇は、雇い入れの日から起算して6ヶ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤(労働基準法39条1項)した時点から発生します。

「雇入れの日」とは、実質的な就労開始日と考えられています。また派遣労働者の場合、「全労働日」とは派遣先で就労すべき全労働日であると解されています(ユニ・フレックス事件・東京高判平11・8・17労判772号35頁)。

日数は?

何日有給が発生するかは、1週間にどの程度働いているかによって異なります。

  • 一般の労働者週所定の労働日数が5日以上または週所定労働時間が30時間以上の労働者)
  • 所定労働日数が少ない労働者週所定の労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満の労働者)

の二つに分けられますので、ご自身の当てはまる方を参照してください。

一般の労働者

1週間に5日以上または労働時間が30時間以上の労働者は、

6か月間継続勤務 + 全労働日の8割以上出勤 で、

  • 6ヶ月目に10日
  • 1年6ヶ月目に11日
  • 2年6ヶ月目に12日
  • 3年6ヶ月目に14日

以下1年間勤務が継続するごとに有給日数が増えていき、最大20日までになります。

所定労働日数が少ない労働者

上記の一般の労働者よりも勤務時間が少なくても、日数は少なくなりますが有給休暇は発生します。

例えば週4日勤務なら、

6か月間継続勤務 + 全労働日の8割以上出勤 で

  • 6ヶ月目に7日
  • 1年6ヶ月目に8日
  • 2年6ヶ月目に9日
  • 3年6ヶ月目に10日

・・・と続き、6年6ヶ月以上勤務で最大15日発生します。

例え週1日勤務であっても、「6か月間継続勤務 + 全労働日の8割以上出勤」の要件を満たしていれば日数は少ないながらも有給休暇が発生します。

日雇い派遣でも有給休暇は発生しうる

先ほど「有給休暇の基本的な考え方」の項目で

「法律上の要件を満たせば雇用形態に関わらず法律上当然に有給休暇が発生」すると書きました。

雇用形態に関わらず」ということは、日雇い派遣パートタイムアルバイトなどでも上の要件を満たせば有給休暇は発生するということです。

たとえ使用者との契約書に「有給休暇は無し」などの記載があっても、労働基準法の効力が優先しますので、有給休暇は発生します。

わからないときは労働基準監督署へ

実際にご自身の契約書や勤務実態などと照らし合わせ、上記要件に当てはまるのかどうかよくわからないといった場合もあるかと思います。そういった場合には、心強い味方がいます。

それは労働基準監督署というところです。ここは事業場において労働基準法その他の関係法令による基準が満たされているかを監督する厚生労働省の出先機関です。

電話でも窓口でも親身になって相談に応じてくれます。もちろん無料です。

労働基準監督署というと、お堅いあるいは少し強面のイメージをお持ちの方もおられるかもしれません。しかし、実際はそういったことはなく普通のお役所です。

「労働基準監督署」で検索するとホームページに全国の窓口が掲載されていますので、お住まいの地域の窓口に相談されてみてください。

ここで相談したことは、自分が許可しない限り会社に知れることはありませんし、必ずしも勤務先などを言う必要もありません。

ただ、契約書を持参したり、自分の勤務実態などをわかりやすく説明するための資料があればできるだけ準備したほうが、スムーズに話ができます。

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有給休暇のとり方

有給休暇が発生していることがわかったとしても、どのようにとればいいのか、契約時に知らされていない場合は戸惑うかもしれません。

事前に有給申請の仕方などを教えてくれる派遣会社もありますが、それが無い場合はどうすればいいでしょうか。

派遣会社に連絡するのが原則

法律上は労働者が自由に取得できるのですから、「○日に有給休暇をとります」と派遣会社(派遣社員の場合の使用者は派遣先ではなく派遣会社です)に言って休めば足りることになります。

しかしながら現実問題として、前ぶれも無くいきなり有給を取得するというのは派遣先の業務に支障が生じるおそれがあります。

時季変更権は?

先ほど「有給休暇の基本的な考え方」の項目で使用者には「事業の正常な運営を妨げる場合」には時季変更権があるということに触れました。派遣労働者の場合は派遣元(派遣会社)に時季変更権があります。

通達では、時季変更権は「派遣先の事業の運営に係る事情は直ちにはその行使の理由とはならない」(基発第0331010号)とされています。

ですから、派遣元の事業の正常な運営を妨げるかどうかが問題となりますが、派遣労働者が休暇をとることで実際に影響があるのは派遣先です。この点において法律上ねじれが生じていると指摘されることがあります。

マナーも必要

こういった派遣労働者特有の事情があるので、有給休暇をとる側としてはマナーも必要ではないかと考えます。

本来なら派遣会社にだけ連絡すれば足りますが、有給休暇をとることにより派遣先の業務の正常な運営に支障が生じないように、ある程度の調整は試みたほうが無難ではないでしょうか。

義務ではありませんが、シフト制であれば事前に休むことを派遣先の担当者に伝えるなど、組織で働く人間のマナーとして、根回しをしておいたほうがいいかもしれません。

ちなみに、有給取得時の賃金は派遣会社(派遣元)が支払うので、派遣先は派遣社員が有給で休むか、無給で休むかにはあまり関心がないことが多いと思われます。

拒否されたら?

有給の申請をしても、「あなたには有給休暇は取得できません」といわれることがあるかもしれません。しかし、上でも触れましたが使用者に法律上拒否する権限はありません。

有給休暇の申請の段階で拒否されただけでは違法と判断されることは少ないようです。

なぜなら、単に派遣会社の担当者が口頭などで拒否しても、拒否権限の無い人の発言にすぎず、有給取得を妨げるものとしては弱いからです。

このような場合はどうすべきでしょうか。有給の申請をしたということの証拠を残すために、内容証明郵便やメールといった記録が残るもので申請するという方法もあります。

いつの時点で違法になるか

冒頭の「有給取得のための大まかな流れ」

  1. 自身に有給休暇が発生しているか法律上の要件を確認する
  2. 有給休暇をとる権利がある旨を派遣会社に伝え、指定した日に休暇をとる
  3. 給与日に有給休暇と指定した日の賃金が支払われているか確認する
  4. 賃金が支払われていなければ、労働基準監督署へ相談に行く

の「3.」で賃金が支払われなかった時点で、労働基準法39条7項違反となることが多いようです。

この違反に対しては「6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金」(労働基準法119条第1号 )という罰則があります。

労働基準監督署へ

有給申請をして休暇をとったにもかかわらず、その日の賃金が支払われなかった場合は、先ほど紹介した労働基準監督署へ相談に行くことが一番手っ取り早いと思われます。

ここでは、労働基準法などの法令に違反している企業に対して、指導や調査などといった対応をしてくれます。

もちろん相談者が望まない限り、相談者の情報が使用者に漏れることはありません。ただ、誰に対して違法行為があったのかを特定しない形で行えることは限られてきますが。

とはいうものの・・・

そうはいっても、今後のことを考えると、できるだけ派遣会社との間に波風を立てたくは無い・・・

という気持ちから、労働基準監督署をも巻き込んでまで有給を取得することにためらうお気持ちもあろうかと思います。

雇い主(使用者)は、有給休暇を取得した労働者に対して「不利益な取り扱い」(労働基準法附則136条)をしてはいけないことになっていますが、それでも不安をお持ちの方も多いことでしょう。

有給休暇は、あくまで「権利」であって「義務」ではありませんから、それを行使するかどうかは権利者の自由です。

いずれの選択をしたとしても、もし有給休暇を取得することが当たり前にしづらいという状況なら、その使用者の下で今後も働き続けるのが適切か?という視点も頭の片隅に入れておくとよいかもしれません。

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