外国人観光客の増加による宿泊施設の不足や、Airbnb (エアビーアンドビー、エアビーエンビー)などの一般人が宿泊施設を貸し出すサイトの影響などにより、民泊(みんぱく)が話題になっています。

民泊とは、もともと民家など一般人の家などに宿泊することの意味ですが、旅館業を営んでいない人たちが宿泊マッチングサイトなどでマンションの部屋などを有料で貸し出すことの意味でも使われることが多くなっています。

通常旅館などを営業するには法律上の許可が必要ですが、そういった条件を緩和するために検討されてきたのがいわゆる「民泊」条例です。

この記事では、その民泊条例について説明していきます。

Sponsored Links

旅館業法の許可は不要?

実は民泊条例は結構ややこしい位置づけになっていて、説明しようとすると周辺の法令の説明も必要になってきます。

そこで民泊条例の説明の前に、旅館業法の制約について説明しておきます。

原則として、料金をとって人を宿泊させる「旅館業」には、旅館業法に定められている条件を満たし、都道府県知事の許可を受ける必要があります。

旅館業」とは、

ホテル営業、旅館営業、簡易宿所営業や下宿営業

のことです(旅館業法2条)

民泊についても、これらと類似した営業であることが多いため、この旅館業法との抵触が問題になっています。

旅館業の許可を受けるためには、旅館業法施行令で定める構造設備基準や、都道府県の条例で定める換気、採光、照明、防湿、清潔等の衛生基準に従っていることなどです。

例えば、構造設備基準の例としては、客室数や床面積、フロントの設置、入浴設備や便所の数などの条件があります。

民泊営業をしている施設の中には、こういった条件を満たさず許可も受けていない場合があると推測されます。

そういった旅館業法の条件をクリアしていない施設でも宿泊できるようにしようということで、民泊条例が検討されてきました。

民泊条例とは?

では民泊条例とはどういった内容なのでしょうか。

全国で一番最初に成立したのは大阪府の民泊条例です。

正式名称は、「大阪府国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業に関する条例」です。

次いで東京都の大田区が「大田区国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業に関する条例」を成立させました。

そして2016年1月に大阪市も「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業に関する条例」(施行は2016年10月以降)を成立させました。

冒頭で説明した民泊の意味からすると、旅館業法の適用が緩和されることで一般の家への宿泊ができるようになるとのイメージがあるかもしれません。

しかし、民泊条例でできる民泊はいろいろと制約があり、正式名称にあるとおり、外国人が宿泊できるように配慮された施設に限られるというのが大きな特徴です。

もっとも外国人向けの施設を作ることが求められますが、日本人も宿泊することは可能です

民泊条例の内容をわかりやすく

外国人滞在施設経営事業とは

条例の正式名称にある「外国人滞在施設経営事業」というのは、

国家戦略特別区域において外国人旅行客向けの施設を賃貸借契約及びこれに付随する契約に基づいて使用させるとともに、外国人の滞在に必要なサービスを提供する事業

のことです。

旅館業法が適用されない条件とは

以下のような一定の要件を満たす施設に限り、旅館業法の適用がされません

つまり、旅館業法の要件を満たしていなくても、以下の要件を満たせば営業できるということです。

  1. 国家戦略特別区域内であること
  2. 賃貸借契約およびこれに付随する契約に基づくものであること
  3. 使用期間が7~10日の範囲であること
  4. 居室は国家戦略特別区域法施行令12条3号を満たすこと
  5. 外国語の案内があること
  6. 事業の一部が旅館業に該当すること

 

それぞれについて少し説明を加えます。

Sponsored Links

 

1.国家戦略特別区域内であること

国家戦略特別区というのは、国家戦略特別区域法という法律によって指定された区域のことです。

東京圏(東京都、神奈川県、千葉県成田市)や関西圏(大阪府、兵庫県、京都府)をはじめ、その他の地方都市もいくつか指定されています。

2.賃貸借契約およびこれに付随する契約に基づくものであること

通常の宿泊は賃貸借契約を結ぶことはありませんが、この事業で営業する場合は滞在者と賃貸借契約およびこれに付随する契約を結ぶことが必要になります。

3.使用期間が7~10日の範囲であること

滞在者が使用する期間は、7~10日の範囲で、7日未満や11日以上はできません。こちらも大きな特徴ですね。

もう少し厳密にいうと、 7~10日の範囲でかつ、条例で定めた期間以上(大阪府、大田区、大阪市の場合は7日)ということになります。

4.居室は国家戦略特別区域法施行令12条3号を満たすこと

居室は以下の要件を満たす必要があります。

イ 一居室の床面積は、二十五平方メートル以上であること。ただし、施設の所在地を管轄する都道府県知事(その所在地が保健所を設置する市又は特別区の区域にある場合にあっては、当該保健所を設置する市の市長又は特別区の区長)が、外国人旅客の快適な滞在に支障がないと認めた場合においては、この限りでない。
ロ 出入口及び窓は、鍵をかけることができるものであること。
ハ 出入口及び窓を除き、居室と他の居室、廊下等との境は、壁造りであること。
ニ 適当な換気、採光、照明、防湿、排水、暖房及び冷房の設備を有すること。
ホ 台所、浴室、便所及び洗面設備を有すること。
ヘ 寝具、テーブル、椅子、収納家具、調理のために必要な器具又は設備及び清掃のために必要な器具を有すること。

出典:国家戦略特別区域法施行令12条3号

5.外国語の案内があること

施設の使用方法や、緊急時における情報提供が外国語でなされていること、その他の外国人が滞在するのに必要なサービスを提供することが必要になります。

外国人滞在施設経営事業」の趣旨が急増する外国人観光客の滞在環境を整えるという点にあることから、外国人が不自由なく滞在できる環境にあることが求められます。

6.事業の一部が旅館業に該当すること

営業する事業の一部が旅館業法いう「旅館業」であることが必要です。

前半でも書きましたが、「旅館業」とは、ホテル営業、旅館営業、簡易宿所営業や下宿営業のことです(旅館業法2条)。

大阪市は事業者の義務も明記

民泊については近隣住民の苦情も懸念されることから、大阪市の条例では認定事業者の義務も明記されています。

内容は、近隣住民への事前説明、苦情窓口の設置、滞在者への施設利用の方法などの説明を義務付けるものとなっています。

さいごに

以上、いわゆる「民泊」条例について、大阪府や大田区の条例をもとにして説明してきました。

条例そのものの主な内容は、滞在期間と立入検査権で、細かな内容は国家戦略特別区域法施行令や規則などに定められています。

実は、大阪府の条例が成立したことで大阪府内全域で有効かというとそうでもなく、宿泊施設を所管する保健所を持つ大阪市、堺市、東大阪市、高槻市、枚方市、豊中市は別途市の条例が必要で、大阪市以外では条例が成立していないため、外国人滞在施設経営事業はできません。

結構ややこしいですが、大阪府の条例では府内37市町村のみで、そのうち吹田市、池田市、交野市、松原市が2016年4月での参加を見送る見通しです。

いずれにせよ、外国人旅行者の増加によって宿泊施設が不足していることから、このような条例によって民泊を認めていく流れは止められそうにはありません。
慎重かつ迅速にルール作りを進めていってほしいところです。

Sponsored Links