ビットコインをはじめ、最近話題になることが多くなった仮想通貨ですが、日本の法律はこれまで仮想通貨というものを想定していませんでした。
ですから、仮想通貨についての規定はありませんでした。
しかし近年、世界中で話題となるだけでなく、実際に多くの仮想通貨が発行され始め、日本においてもその波が押し寄せてきています。
三菱東京UFJ銀行がMUFGコインを発行するとの報道もなされ、世間に大きなインパクトを与えました。
そんな時代の流れに対応すべく、仮想通貨に関する法律が制定されました。その法律が平成29年(2017年)4月に施行されました。
世の中の仕組みを大きく変えるとも言われている仮想通貨、法律ではどのようなことが規定されているのでしょうか。
この記事では、仮想通貨について規定された新しい法律の内容などを中心に説明していきたいと思います。
仮想通貨法とは?
いきなりですが仮想通貨法という名前の法律があるわけではありません。
今回施行されたのは、「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律(平成28年法律第62号)」という法律です。
この法律は、フィンテックに代表されるIT技術の進展などに伴う環境の変化に対応するために金融分野の法律を改正するためのものです。
この法律には、金融グループにおける経営管理の充実や共通・重複業務の集約等、技術革新や仮想通貨への対応といった内容が盛り込まれています。具体的には、銀行法をはじめとする11の金融関連の法律についての改正です。
これらの内容のうち、仮想通貨への対応が盛り込まれた資金決済法の改正部分が通称、仮想通貨法ないし仮想通貨規制法と呼ばれています。
以下、仮想通貨に関する部分に絞って説明していきます。
資金決済法の改正が中心
仮想通貨に関連するのは資金決済法(資金決済に関する法律)の改正で、仮想通貨についての規定が整備されました。
具体的な条文については、以下の金融庁の資料を参照してください。
http://www.fsa.go.jp/common/diet/190/01/shinkyuu.pdf
仮想通貨関連の内容は大きく以下の3つです
- 仮想通貨の定義
- 仮想通貨交換業の定義
- 仮想通貨交換業の規制
これらについて一つずつ説明していきます。
仮想通貨の定義
資金決済法において「仮想通貨」についての定義づけがされました。
一般的に言われる仮想通貨は、その性質上暗号通貨との表現のほうが正確であるとの見解があるものの、日本においては仮想通貨との名称が定着してきています。
そういった議論がある中、新しく施行された法律においては「仮想通貨」との表現が採用され、法律用語としての「仮想通貨」が定義づけられました。
新法では2種類の仮想通貨が定義されています。
1号仮想通貨(資金決済法2条5項1号)
以下の要件をすべて満たすものが1号の仮想通貨です。
- 物品の購入・借り受け又はサービスの提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用できること
- 不特定の者を相手方として購入・売却ができる財産的価値であること
- 電子機器その他の物に電子的方法により記録されていて、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
- 日本および外国の通貨、ならびに通貨建資産でないこと
いわゆる電子マネーは、1.にいう「不特定の者に対して使用できる」わけではないので、仮想通貨にはあたりません。
なぜなら、例えば楽天Edyなどは加盟店でないと使えないため、特定の者に対してしか使えないからです。
加えて電子マネーは「円」で表示されますので、4.も満たしません。
また、三菱東京UFJ銀行が発行予定のMUFGコインは、「不特定の者」からの購入はできないとすれば、2.の要件を満たさないので仮想通貨には当たらないとの見方があります(『旬刊商事法務 No.2108』商事法務研究会、63頁参照)。
2号仮想通貨(資金決済法2条5項2号)
以下の要件を全て満たすのが2号の仮想通貨です。
- 不特定の者を相手方として1号仮想通貨と相互に交換ができる財産的価値であること
- 電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
物品の購入などができる1号仮想通貨とは異なり、1号仮想通貨と交換ができるものが2号仮想通貨です。
仮想通貨交換業の定義
次は仮想通貨の取引について規定です。
仮想通貨交換業とは、以下のいずれかの行為を事業として行うことです(資金決済法2条7項)。
- 仮想通貨の売買または交換
- 仮想通貨の売買または交換の媒介、取次ぎまたは代理
- 上記二つの行為に関して、利用者の金銭または仮想通貨の管理をすること
要するに、事業として仮想通貨の売買や他の仮想通貨との交換、その取次などをしたり、これら利用者のお金や仮想通貨を管理することです。
仮想通貨交換業の規制
こちらは仮想通貨の取引所についての規定です。
上の項目で説明した仮想通貨交換業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ行うことができません(資金決済法63条の2)。
この登録を受けた者のことを仮想通貨交換業者といいます。
(追記:2017年9月29日、金融庁はビットフライヤーなど登録を受けた仮想通貨交換業者11社を公表しました)
これまでは規定がなかったため誰でも行うことができましたが、これからは登録を受けなければ行うことができません。この意味で規制がなされることになります。
昨今、インターネット上などで仮想通貨の取引を謳っておきながら登録を受けていない業者も存在するようです。
しかし、こういった業者が販売しようとする商品に仮想通貨という名前がつけられていても、その商品が上で説明した法律上の「仮想通貨」の定義に該当していなければ、法律上の「仮想通貨交換業」を行っているわけではないので、その業者は登録を受ける必要はありません。
このような業者が販売する商品を検討する場合は、業者の実態や販売実績、第三者の見解を調べるなどして、悪徳業者でないかを慎重に見極める必要があります。
登録に必要な要件
新法では、仮想通貨交換業の登録申請が拒否される場合について規定しています(資金決済法63条の5)。
裏を返せば、仮想通貨交換業者として登録を受けるには、これらの拒否事由に当たらないことが必要ということになります。
登録に必要な要件として主なものは以下です。
- 株式会社または外国仮想通貨交換業者(国内に営業所が必要)であること
- 外国仮想通貨交換業者は、国内における代表者がいること
- 資本金の額が一千万円以上で、純資産額がマイナスでないこと
- 仮想通貨交換業を適正かつ確実に遂行する体制の整備が行われていること
- 法令遵守のために必要な体制の整備が行われていること
- 他に行う事業が公益に反しないこと
- 取締役若しくは監査役又は会計参与等が破産や刑に処せられた等の欠格事由がないこと
資本金額が定められているのは、業務を適正かつ確実に行えるためのシステム構築などの初期投資が必要であるからであり、また純資産額がマイナスでないことが求められているのは、債務超過の業者を除外するためであると考えられています(『NBL No.1079』商事法務研究会、69頁参照)。
登録申請時の記載事項
仮想通貨交換業者の登録申請は、以下の事項を記載して行います(資金決済法63条の3第1項)。
一 商号及び住所
二 資本金の額
三 仮想通貨交換業に係る営業所の名称及び所在地
四 取締役及び監査役(監査等委員会設置会社にあっては取締役とし、指名委員会等設置会社にあっては取締役及び執行役とし、外国仮想通貨交換業者にあっては外国の法令上これらに相当する者
とする。第六十三条の五第一項第十号において同じ。)の氏名
五 会計参与設置会社にあっては、会計参与の氏名又は名称
六 外国仮想通貨交換業者にあっては、国内における代表者の氏名
七 取り扱う仮想通貨の名称
八 仮想通貨交換業の内容及び方法
九 仮想通貨交換業の一部を第三者に委託する場合にあっては、当該委託に係る業務の内容並びにその委託先の氏名又は商号若しくは名称及び住所
十 他に事業を行っているときは、その事業の種類
十一 その他内閣府令で定める事項
出典:http://www.fsa.go.jp/common/diet/190/01/shinkyuu.pdf
上記「十一 その他内閣府令で定める事項」についての内容は以下です(仮想通貨交換業者に関する内閣府令5条)。
一 取り扱う仮想通貨の概要
二 法第六十三条の十一第一項に規定する管理の方法
三 仮想通貨交換業の利用者からの苦情又は相談に応ずる営業所の所在地及び連絡先
四 加入する認定資金決済事業者協会(仮想通貨交換業者を主要な協会員又は会員とするものに限る。以下同じ。)の名称
出典:http://www.fsa.go.jp/news/28/ginkou/20161228-4/22.pdf
「三」の利用者からの苦情や相談に応じるための連絡先の記載が求められており、利用者への配慮が伺えます。
おわりに
以上が新しく仮想通貨に関する法律改正の主な内容でした。
いよいよ仮想通貨の取引所が法律として認められることになります。
新法には適正な取引所の運営の観点だけでなく、マネーロンダリング防止やテロ資金に使われることの防止のほか、利用者保護の観点も盛り込まれています。
取引所を開設しようとする法人だけでなく、個人であっても新法の内容を把握しておいて損はありません。
世の中に大きなインパクトをもたらす仮想通貨(暗号通貨)ですが、法律の側面から観察してみるのも面白いかもしれません。