隣地との境界線をめぐるトラブルは全国的にたくさんあることと思います。
トラブルの一番大きな原因は、境界線がどこなのかについての認識がお互いに異なることです。
この記事では、土地の境界をめぐってトラブルになっている場合に、話し合いで解決する際に気を付けるべき点などについて紹介します。これらは主に筆者の体験をもとにまとめたものとなります。
土地の境界をはっきりさせ、図面を作成して登記をするには土地家屋調査士や司法書士など専門家に依頼することになるのがほとんどと思いますが、解決の第一歩は当事者同士の話し合いです。
土地の境界問題で話し合いをする際の参考にしていただければと思います(土地の境界問題は、厳密には純粋な私人同士の問題ではありませんが、今回の記事のテーマは土地の所有権が及ぶ範囲を決める性格が強いことから、民事法のカテゴリーに入れました)。
Contents
境界トラブルの背景
筆者の実家がある土地は、以前から境界線をめぐるトラブルに巻き込まれていました。お隣の土地の所有者とは主張する境界線が異なっており、祖父母の代から決着がつかないまま、半世紀以上経っているという状態でした。
しかし、相続をきっかけとしてそろそろ境界をはっきりさせたほうがよいという話になりました。そこでこちら側から「土地の境界をはっきりさせませんか」と、筆者が代表者としてお隣さんに声をかけることになりました。
結論的には半年を超える交渉期間の末、なんとか解決に至りました。手探りの状態から始め、試行錯誤の末の結果です。
実際に解決に至った過去の事例について、当事者の体験談などを参考にしたかったのですが、なかなかそういった情報に触れることはできませんでした。
事前にそういった情報があればもっとスムーズに話を進めることができたかもしれません。
そこで、今回筆者が経験した境界トラブルの事例をもとに、話し合いで解決するために気を付けたことなどについて書き留めておくことにしました。
土地の境界トラブル解決のための参考にしていただければ幸いです。
話し合いの事前準備段階で気を付けたこと
この項目では、話し合いを開始する前の事前準備段階で気を付けたことについて触れます。
話し合いをするといっても、何も準備をせずにいきなり話し合いに臨むというのは得策ではありません。無駄な話し合いを避けるためにも、準備できるものは準備し、調べることができるものは調べたうえで話し合いの臨むのがいいでしょう。
そこで、話し合いに入る前の事前準備として以下の点に気を付けました。
- 調べれるものは調べる
- 相手側の主張を予測する
- 自分側の主張と譲れるラインを整理する
順番に説明します。
調べれるものは調べる
土地の境界がはっきりしないと当事者が思っている場合でも、なんらかの資料が存在している場合があります。法務局へ行って資料がないか確認しましょう。
境界がはっきりしていない場合、地積測量図が存在しないかもしれませんが、公図はあるかもしれません。
公図についてはあまり正確性は期待できませんが、土地の形などの定性的なものに関しての信頼性は高いと考えられていますので何らかの手掛かりになるかもしれません。
他には実際の現場において目印になる物がないか探しておくことも重要です。
ただ、話し合いを進めていない段階で現状を大きく変えるようなことをすると、あらぬ疑いをかけられる可能性もありますので、現状を大きく変える場合は相手に断ってから行うほうがいいでしょう。
相手側の主張を予測する
これまで境界線についてトラブルになっていたとすると、相手側の主張と自分側の主張がどこかしら食い違っているはずです。それがどの程度食い違っているのか、相手側の主張を予想しておきます。
少し食い違っているだけなのか、大幅に違うのか、ある程度予測を立てておくと後で慌てなくて済みます。
自分側の主張と譲れるラインを整理する
自分側の主張も整理しておきます。
正当性があるのか、反論できるだけの証拠があるのか、なども整理しておき、証拠となる資料等があればそろえておきます。
また、客観的事実と憶測を分けておくことも重要です。
単に「祖父から聞いた」などは証拠としては弱いと言わざるを得ません。物的な目印となるものや図面、写真などの記録など、なるべく客観的なものを準備しておきます。
話し合いに入った段階で気を付けたこと
次に話し合いに入った段階で気を付けるべきと考えたことについて説明します。
長年続いた境界紛争が一度の話し合いで決着するということは稀と考えられます。何度も何度も話し合いを重ねて元の境界線を探していく、あるいは妥協点を探っていくということを続ける必要が出てくることが多いと思います。
問題となる境界線が複数ある場合や、互いが作った工作物などがある場合などは時間をかけて少しずつ話し合いを進めていくしかありません。
筆者の場合は話し合いをするにあたり、以下の点に気を付けました。
- 相手を見極める
- 相手側の言い分をよく聞く
- 目印となる物を探す
- 記録をとる
- 自分側の主張を再整理
- 一時の感情に流されない
- 結論を急がない
- 有利な点・不利な点を洗い出す
- 立場を変えて考えてみる
順番に説明していきます。
相手を見極める
まず話し合いをする相手についてです。
土地が共有の場合は、共有者全員との合意が必要となりますが、交渉する場合は一人の代表者が行うことなる場合が多いと思います。
昔から続く境界トラブルの場合は、発端となったかつての当事者ではなく、代替わりをして別の人になっている可能性があります。筆者のケースでも両者とも代替わりをしていました。
話をしていくうちに相手の人となりが見えてくると思います。細かなことにこだわる人なのか、おおらかで細かなことは気にしないタイプの人なのか、柔軟に常識的判断をしてくれそうなタイプの人なのか…。
一番重要なのは、論理的な話が通じる人かどうかです。人当たりがいいかどうかはあまり重要ではありません。冷静な話し合いができそうな相手であれば、円満に解決できる可能性は高まります。
これに反して思い込みが激しく理屈が通じない人であったり、言うことがコロコロ変わったり、頓珍漢な答えが返ってくる人であれば厄介です。
また、足元を見て無理難題を吹っ掛けようとしてくるような相手や、嘘をついたりごまかしたりするような相手も要注意です。
こういったタイプの人だった場合、話がこじれて話し合いで解決に至らない可能性があります。最悪の場合は裁判まで視野に入れる必要がでてくるかもしれません。
相手の言い分をよく聞く
境界トラブルを抱えている場合は、自分と相手の主張がどこか食い違っているはずです。
相手の言い分は自分が予測していたものと同じかどうか、まずは真摯な態度でよく聞くことが大切です。
全く聞かずに自分の主張だけを言うと相手にストレスを感じさせる原因ともなります。相手の見解はどういうものであるか、冷静になるべく客観的に聞くことが大事です。
目印となる物を探す
とにかく境界の目印となりそうなものがないか探すことが大切です。ある程度話し合いが進んだ段階で目印になるもの見つかると、それまでの話し合いが無駄になってしまうことにもなりかねません。
「ないだろうな」という思い込みがあると発見が遅れがちになります。あきらめずに起点となる部分に杭などが埋まっていないか探しましょう。
ただ、前にも触れましたが、単独でどんどん掘り進めて何かが見つかると「あなたが自分で埋めたのではないですか?」という疑いをかけられることにもなりかねませんので、掘り進めたりする場合は、相手側の立会いの下に進めるほうがいいでしょう。
もっとも、境界を示すものであると当事者が考えても、本当にそれが境界を示すものであるとは限りませんので土地家屋調査士などと相談しながら判断されてください。
記録をとる
現場で土地の境界に関連しそうなものは、可能な限り写真や映像などの記録に残しておくのが得策です。あとで目印となるものが動かされたりした場合の証拠になります。
特に相手方の敷地内に入らないと確認できないものは、一言断ってから可能な限り記録に残したほうがよいです。疑っているようで遠慮しがちになるかもしれませんが、フェアな交渉をするために理解してもらいましょう。
筆者が体験したケースでは、相手の敷地内にある目印として合意していた杭が、最初に確認した時と測量の時とで位置が変わっていたなんてことがありました。
こういったことも起こりえますので、可能な限りデジタルカメラやスマートフォンなどで写真や映像として記録をとることをおすすめします。
また、話し合いをした際にどんなことを話したのかなどのメモなども残しておくのもいいでしょう。後で確認する際に役立ちます。
自分側の主張を再整理
相手の言い分をよく聞くと同時に自分の主張をよく整理しておくことも大切です。
話し合いが進むにつれて、目印となる物が出てきたり、すり合わせで決定した点が出てきたりと、事前準備段階で考えていたことと事情が異なってくることがあります。
そういった場合は、その段階の事情に合わせて自分の主張も整理しなおしておくことが重要です。
一時の感情に流されない
話し合いを進めていくと、過去のわだかまりなどの記憶が一気に噴き出してきて感情的
になってしまいそうになることもあるかもしれません。
しかし、一時的な感情によって話し合いをぶち壊してしまうのは得策ではありません。境界トラブルの場合は、相手もこちらに対してネガティブな感情を抱いている可能性もあります。
お互い様というケースも多いですから、心に余裕をもって話し合いを進めていきましょう。
結論を急がない
土地を早く売却しなければいけないなど、どうしても境界を早く決めてしまいたいといった事情がない限り、結論は急ぎすぎないほうがいいと思います。
後々後悔が残るようなことは避けたいところです。境界の目印となる客観的な杭などが出てきたような場合は別ですが、そうでない場合は、現場を見てお互いじっくりと考えながら話し合いを進めていったほうがいいでしょう。
お互いの主張が食い違っていても、冷却期間を置くことで両者に歩み寄りの姿勢が出てくることもあります。
有利な点・不利な点を洗い出す
交渉がうまく進まない場合は、自分側、相手側にとって有利な点・不利な点を洗い出し、それらのバランスがうまく取れるように考えるのもいいかもしれません。
元の客観的な境界を探すという作業ではありませんが、現実的な妥協点を見つけるということには役立つはずです。
立場を変えて考えてみる
境界トラブルでの話し合いような場面では、端から見ると滑稽なほどお互い自分に有利になることしか考えていなかったりします。
ですから、解釈が正反対になって真っ向から主張が対立するということが起きてしまうのです。
そういった場合は、もし自分が相手の立場であったらどのように考えるかということをシミュレーションしてみるのがいいかもしれません。そうするとなぜ相手側がそのような主張をするのかを理解する助けになります。
おわりに
境界トラブル解決の第一歩は話し合いです。
本来、土地の境界線がどこかという真実は一つですが、それが特定困難な場合に問題となります。
徹底的に真実を追求したい場合は、筆界特定制度を利用したり、境界確定訴訟をすれば結論が出ます。
しかし、それらを行うには多くの費用と時間がかかることから、現実的には話し合いで妥協点を決め、(真実はどうであれ)そこを境界線とすることが多く行われています。
話し合いでまとめることができれば、費用と時間を節約することができるだけでなく、相手との関係悪化を防ぐこともできます。
もっとも話し合いは、マニュアルに沿って対処すれば機械的に答えが出るというものではありません。過去の出来事や感情的な問題も複雑に絡んでくることも多く、トラブルがあればトラブルの数だけ対処法が異なると考えられます。
そういった点にも配慮して、話し合いを進めていく際の参考にしていただければ幸いです。
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