「一票の格差」という問題について耳にしたことはある方も多いかもしれません。
最近では、裁判で憲法違反がどうとかいう報道もされ、少しホットな話題にもなっています。
選挙が行われるたびにといってもいいほど、問題にされる一票の格差問題ですが、どういった問題があるのでしょうか。
この記事では、一票の格差の意味についてと、一票の格差にまつわる問題について説明していきたいと思います。
Contents
一票の格差とは?
選挙権(投票する権利)をもっている有権者は、一人一票投票する権利を持っていますよね。
しかし、同じ一人一票であって住んでいる地域、あるいは選挙区によって一票の重みに違いが生じるという場合があります。
これが「一票の格差」問題です。
投票価値が平等でない!
例えば、有権者数10万人のA選挙区と20万人のB選挙区があるとします。
AとBいずれの選挙区も国会議員一人を選ぶことができるとします。
その場合、A選挙区では有権者10万人で一人選べるのに対し、B選挙区では有権者がA選挙区の2倍の20万人いるにもかかわらず、一人しか選ぶことができません。
ということは、国会議員を選ぶことができる一票の価値という点では、A選挙区の有権者はB選挙区の有権者の2倍の価値があるということになります。
このように選挙区によって一票の価値に格差が生じるのが、一票の格差問題なのです。
一票の格差問題としてニュースなどで報道される裁判の多くは国会議員を選ぶ選挙についてです。
平等権の問題
裁判が起こされるのは、有権者の間で投票価値に不平等が生じているとして、平等権(びょうどうけん)を保障する憲法14条に違反しているということが主な理由になります。
このような訴訟を議員定数不均衡訴訟(ぎいんていすうふきんこうそしょう)と呼ばれます。
衆議院議員選挙と参議院議員選挙が代表的な例ですが、一票の格差問題は国会議員だけでなく、都道府県や市町村などの地方議会議員選挙においても問題になり訴訟も起こされています。
議員定数不均衡訴訟について
ここでは国会議員の選挙についてみていきます。
国会議員選挙の定数配分については、公職選挙法(こうしょくせんきょほう)に規定されています。
衆議院議員選挙は小選挙区比例代表並立制、参議院議員選挙は選挙区と比例代表制を組み合わせたものです。
参議院議員選挙は都道府県ごとに選挙区を、衆議院議員選挙では、選挙区を都道府県からさらに第○区というように小選挙区を分けています。
衆院選と参院選で許容される倍率が違う?
実際にこれまで裁判がいくつも起こされてきましたが、憲法違反となる倍率は衆議院と参議院で違いがありました。
それぞれについてみていきましょう。
参議院議員選挙
参議院議員選挙の一票の格差を問題にした参議院議員定数不均衡訴訟では、1996年に最高裁判所で6.59倍の格差で違憲(憲法違反)状態と判断されました。
それ以前は、5.85倍など、5倍台は合憲と判断されていました。
その後、2009年に5.06、5.13、4.86倍の格差を合憲と判断しつつも、複数の裁判官が反対意見を述べたりもしました。
そして、2014年には、4.77倍で違憲状態と判断されました。この訴訟で問題になったのは、2013年7月の参議院選挙で議員一人当たりの有権者が一番多い鳥取県と一番少ない北海道の格差が4.77倍でした。
衆議院議員選挙
衆議院議員選挙の一票の格差を問題にした衆議院議員定数不均衡訴訟では、1993年に最高裁判所で3.18倍の格差で違憲状態と判断されました。
それ以前は、2.92倍など、2倍台は合憲と判断されていました。
その後、2011年に2.304倍の格差を違憲状態、2013年には、2.43倍の格差を違憲状態と判断しました。
そして2015年現在、一票の格差2.13倍が違憲であるかの訴訟が続いています。
衆議院と参議院で違いがあるのはなぜ?
衆議院と参議院で、違憲状態とされる倍率に違いがあります。
なぜこのような違いがあるのでしょうか。
その理由として考えられるのは、参議院議員は衆議院議員と異なって地域代表的な性格が強く、人口比例だけにこだわる必要はないと考えられていた節があるからです。
どのくらいまでが許容範囲?
すべての有権者の投票の価値を同じにするということは現実的には不可能です。
地域によって有権者の数にばらつきはありますし、常に変動もしているからです。
では、どの程度までなら許容範囲といえるでしょうか。
一般的には、格差が2倍以内であれば許容範囲であるというように言われています。
2倍以上になると、一人に2票以上の開きが出てくるのは不都合であるとの考えからですね。
しかしながら、現実的には、特に参議院議員選挙では2倍を大きく超える格差が生じていても合憲とされる傾向がありました。
徐々に是正されてきているとはいえますが、早急にというわけにはいかないようです。
違憲とされた場合、選挙はどうなるの?
以上で紹介した裁判所の判断には、「違憲状態」としたものがありました。
実は、これは定数配分を定めた規定(公職選挙法)を違憲と判断したのではありませんでした。
投票価値の不平等が人口の変動状態を考慮しても合理的期間内に是正がされない場合に、定数配分規定が違憲になるというものでした。
つまり、投票価値に不平等が生じてはいますが、法律は合憲としながらも、格差が生じている状態が違憲なので、合理的期間内に是正してくださいという判断なのです。
これを合理的期間論(ごうりてききかんろん)といいます。
仮に違憲と判断された場合、それまでに行われた選挙はどうなるのでしょうか。
この点について、仮に選挙を無効としても、公職選挙法の定数配分を定めた規定を改正しない限り、再選挙をしても無意味です。
ですから、裁判所としては選挙を無効とするのではなく、違法と判断するにとどめ間接的に国会に是正を求めて法的安定性を図っています。
さいごに
以上、一票の格差とそれに関連する問題点について説明してきました。
一票の格差をきっかけにして、どのような地域の有権者が有利になっているかをチェックしていくのも面白いかもしれません。
投票権は、国民の代表者を選ぶ重要な権利ですから、投票の価値の不平等は限りなくゼロにすべきです。
政治に歪みが生じないように、是正していってもらいたいですね。