苗字(名字・氏・姓)が変わる場合というと、結婚によるものというイメージが強いかもしれません。
しかし、それ以外にも離婚や養子縁組、その他の場合にも苗字が変わる(変えられる)場合があります。
そこでこの記事では、どのような場合に苗字が変更になるのか、あるいは変更できるのかについてまとめてみたいと思います。
日本の法律では、自分の意思とは関係なく法律上当然に変更になる場合と、自分の意思で選択・変更できる場合の両方があります。
この二つに分けて説明していきたいと思います。
法律上は「氏」
ファミリーネームたる苗字は、名字・氏・姓などいくつかの表現がありますが、法律では「氏(し)」という表現になっています。
法律上は「氏」という表現で統一されますので、気をつけておいてください。
この記事でも以下からは苗字のことを「氏」と表現します。
法律上当然に変更になる場合
まず、法律上当然に変更になる場合についてです。
氏は身分関係が変動することにより、法律上当然に氏も変わることがあります(氏の変動)。
それは以下の場合です。
- 婚姻
- 離婚
- 養子縁組
- 離縁
大まかなイメージはつくかと思いますが、簡単に説明していきます。
1.婚姻(こんいん)
結婚によって氏が変わるということは周知のことと思いますが、法律上は婚姻によって「夫又は妻の氏」(民法750条)にしなければならないことになっています。
必ずしも夫の氏にしなければならいわけではなく、妻の氏でもいいのですが、どちらか一方の氏に統一し、他方の氏が変更されるということになります。
どちらかの氏を選ぶことはできますが、両方の氏を変更しないということはできません。
2.離婚(りこん)
離婚をすれば、婚姻によって氏を変更した方は婚姻前の氏に戻ります(民法767条1項、771条)。
氏が戻ることを「復氏(ふくし)」といいます。離婚による復氏が原則となりますが、これには例外があります。
この例外については後の項目で説明します。
3.養子縁組(ようしえんぐみ)
養子縁組は、もともと親子関係になかった人たちの間に人為的に親子関係を生じさせる制度です。
養子縁組は主に後継ぎや扶養、家族関係を安定させることを目的に行われます。
養子となった人は養親の氏になります(民法810条本文)。
もっとも、養子が婚姻している時は、そのままの氏(婚氏)が優先し、氏は変わりません。
4.離縁(りえん)
養子縁組を解消(離縁)した場合、養子は縁組前の氏に戻ります(復氏)(民法816条1項本文)。
ただし、夫婦共同縁組(配偶者のある人が未成年者を養子とする場合に夫婦でする養子縁組)の養子が養親の一方のみと離縁する場合は、養子の氏は変わりません(同条項ただし書)。
自分の意思で選択・変更できる場合
次に、自分の意思で氏を選択・変更できる場合についてです。
それは以下の場合です。
- 夫婦一方死亡の場合の生存配偶者の復氏
- 離婚による復氏から婚氏に変更(離婚後3か月以内)
- 離縁による復氏から離縁の際の氏に変更(離縁後3か月以内)
- 父または母と氏を異にする子の意思による変更
- やむを得ない事由による変更
- 外国人と婚姻した者が配偶者の氏に変更(婚姻から6か月以内)
- 上記6.で氏を変更した者が、離婚・婚姻取消し・配偶者の死亡いずれかの後、変更の際に称していた氏に変更(3か月以内)
以下、それぞれについて簡単に説明します。
1.夫婦一方死亡の場合の生存配偶者の復氏
夫婦の一方が死亡しても生存する配偶者の氏は変わりません。
しかし、生存配偶者の意思によって婚姻前の氏に戻すことができます(民法751条1項)。
2.離婚による復氏から婚氏に変更(離婚後3か月以内)
上のほうの項目で離婚による復氏が原則であることを説明しましたが、これには例外があります。
それは離婚から3か月以内に届出を出すことで、離婚の際に称していた氏(婚姻中の氏)を称することができる(民法767条2項)というものです。これを婚氏続称といいます。
3か月経過後は以下5.の項目「やむを得ない事由による変更」によって氏の変更は可能です。
3.離縁による復氏から離縁の際の氏に変更(離縁後3か月以内)
離縁の場合、養子は縁組前の氏に戻る(復氏)のが原則です。
しかし、離縁が縁組から7年経過している時には、 離縁から3か月以内に届出を出すことで、離縁の際に称していた氏を称することができます(民法816条2項)。これを縁氏続称といいます。
7年の期間が要件になっているのは、氏を獲得するだけの目的でなされる養子縁組を防ぐためと考えられています。
4.父または母と氏を異にする子の意思による変更
離婚した夫婦の子や、嫡出子(父母が婚姻中に出生した子)でない子など、父または母と氏が異なる子は、自分の意思で父または母の氏に変更することができます。
変更するには家庭裁判所の許可と戸籍法の定めによる届け出が必要です(民法791条1項)。
また、父または母が氏を改めたことで子が父母と氏を異にする場合は、父母が婚姻中に限り家庭裁判所の許可なしで、届け出のみで父母の氏に変えることができます(同条2項)。
以上の場合、子が15歳未満の場合は法定代理人が子に代わって氏の変更手続きをすることができます(同条3項)。
以上によって氏を改めた未成年者は、成年(満20歳)に達したときから1年以内に戸籍法の定める届け出を行うことで、以前の氏に戻すことができます(同条4項)。
5.やむを得ない事由による変更
やむを得ない事由によって氏を変更したい場合は、戸籍の筆頭者およびその配偶者は家庭裁判所の許可を得て届け出(戸籍法107条1項)をすることで氏を変更することができます。
どのような場合が「やむを得ない事由」であるかについては以下の記事に書いていますので、興味のある方は参考にしてください。
なお、父または母が外国人である人が氏を父または母の氏に変更しようとする場合は、戸籍筆頭者およびその配偶者でなくても家庭裁判所の許可を得て、その旨届け出することで氏を変更することができます(戸籍法107条4項)。
6.外国人と婚姻した者が配偶者の氏に変更(婚姻から6か月以内)
外国人と婚姻した人が、配偶者の氏に変更しようとする場合は、婚姻から6か月以内に
であれば家庭裁判所の許可を得ずに届け出により変更することができます(戸籍法107条2項)。
7.上記6.で氏を変更した者が、離婚・婚姻取消し・配偶者の死亡いずれかの後、変更の際に称していた氏に変更(3か月以内)
上記6.で氏を変更した者が
- 離婚
- 婚姻取消し
- 配偶者の死亡
いずれかの後、3か月以内であれば家庭裁判所の許可を得ずに届け出により、変更の際に称していた氏に変更することができます(戸籍法107条3項)。
さいごに
日本の法律で、氏が変更になる場合、変更できる場合の一覧についてまとめてみました。
法律上当然に氏が変更になる場合は、婚姻や養子縁組など制度的に氏の変更を余儀なくされる場合です。
このような規定を前提にすると、家制度が廃止された現在においては氏は個人の呼称ではあるものの、血縁団体などの団体名の呼称という意味合いも含まれていると考えられます。
氏を自分の意思で変更できる場合については、要件が緩和されている規定がいくつかありますが、それらに当てはまらなくても、結局のところ後半で紹介した「5.やむを得ない事由による変更」ができる可能性は残されています。
むやみに氏を変更することによる混乱を防ぐ一方、やむを得ない場合には氏の変更の道も残されており、要件によるバランスがはかられています。
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