おとり捜査(囮捜査)と聞くと、どんなイメージがあるでしょうか?
おとり捜査を題材にした「おとり捜査官」というドラマが人気になったりもしますので、その捜査方法について多くの方が関心をもっていることでしょう。
実は現実の日本の法律には、おとり捜査については何ら規定がありません。
犯罪捜査は、逮捕や家宅捜索をしたり、色々な情報調べたりと、国家権力が国民に対して何かしらの人権を制限することが多くなります。
そのため、捜査についてはなるべく人権侵害が起きないように法律で厳しく規定されています。
おとり捜査が法律に規定されていないなら、現実におとり捜査はできないのではないかとも思われますが、実際はおとり捜査を行うことはできます。
しかし、どんなおとり捜査でもできるわけではなく、一定の限られた場合にのみ認められることになっています。
この記事ではどのような場合が適法なおとり捜査なのか、その点について説明していきたいと思います。
おとり捜査とは
では、そもそもおとり捜査とはどのような捜査をいうのか確認しておきます。
日本でいうおとり捜査とは、捜査機関または捜査協力者が、身分や意図を隠して犯罪を実行するように働きかけ、これに対象者が応じて犯罪を実行したところで検挙する捜査方法のことをいいます。
多くの方がイメージしているおとり捜査とだいたい一致しているのではないでしょうか。
2種類に分けられる
おとり捜査には、機会提供型と犯意誘発型の二つの種類に分けるのが代表的な考え方です。
これらは対象者がもともと犯罪を行う意思をもっていたのかどうかによって分けられます。
機会提供型
もともと犯罪を行う意思をもっていた人に対して働きかけて、犯罪を犯したところで検挙する場合を機会提供型のおとり捜査といいます。
例えば、違法薬物を密売しようとうろついている対象者に対して、捜査官が「売ってほしい」と働きかけるような場合です。
この場合、密売人はもともと違法薬物の密売という犯罪を行う意思をもって買ってくれる人を探していたところを、捜査官が売買の機会を提供したということになります。
この意味で機会提供型といわれます。
犯意誘発型
当初は犯罪行為を行おうとは思っていない人に対して働きかけを行い、犯罪を行う意思決定をさせて犯罪を犯したところで検挙する場合を犯意誘発型のおとり捜査といいます。
例えば、なんら罪を犯そうとは思っていない人に対して、あの店では簡単に盗みができるなどと働きかけて、万引きを誘発させるような場合です。
この場合、もともと万引きをする意思をもっていない人に働きかけて犯罪を犯す意思(犯意)を誘発させたという意味で、犯意誘発型といわれます。
次で説明しますが、この犯意誘発型のおとり捜査は認められていません。
適法なおとり捜査とは
捜査には、強制的に行われる強制捜査(きょうせいそうさ)と、強制捜査以外の任意捜査(にんいそうさ)があります。
強制捜査は、逮捕や家宅捜索など強制的に行われるものですね。
これに対して任意捜査は、任意の事情聴取など同意を得て行われるものや、尾行や聞き込みなど対象者の重要な権利・利益を侵害しないような捜査をいいます。
国語的には「任意」とついているのに、相手の自由意志による同意がないものも含まれるのが少しややこしいところですが、上記のように区別されています。
そして、強制捜査は法律に規定がないと行うことはできません(強制処分法定主義)。
適法なおとり捜査は任意捜査に位置づけられる
冒頭で触れましたように、おとり捜査は法律に規定されていません。
強制捜査であれば法律に定められていないと行うことはできませんが、任意捜査なら許される余地があります。
任意捜査として適法であると認められるのは、捜査の必要性・緊急性、手段の相当性が考慮されます。
許されるのは機会提供型のみ
この要件を機会提供型のおとり捜査(違法薬物の密売人への例)にあてはめてみます(あくまで一例です)。
必要性・・・違法薬物が蔓延することを防ぐため捜査の必要性がある
緊急性・・・放置すれば薬物汚染が広がるため密売を防止する緊急性がある
手段の相当性・・・密売の意思がある者に対して密売の機会提供のため、おとりの働きかけの程度が小さく手段も相当である
といったような判断がされますので、適法と解釈されます。
逆にいうと、捜査の必要性・緊急性、手段の相当性のような要件から外れるおとり捜査は、違法になります。
ただ、現実にはそのような違法な捜査が行われるということはあまり考えられません。
さいごに
以上、おとり捜査の種類と適法なおとり捜査についてでした。
刑事手続きは、犯罪事実がどのようなものであったかを究明する真実発見の要請と、捜査によって被疑者の権利・利益を過度に侵害しないという人権保障の要請をいかにバランスよく調整するかが重要になっています。
法律に規定がないおとり捜査の場合、任意捜査として厳しい要件が判断されて適法かが判断されるのは、そのような背景があるためなのですね。