占有離脱物横領罪(せんゆうりだつぶつおうりょうざい)。
とても難しそうな名前ですが、実は身近な犯罪なんです。
例えば、落し物や捨ててある物を拾って自分のものにしてしまうということも、この罪が問題になります。
一般市民が日常生活を送っていて身近に遭遇しうる犯罪といえるでしょう。
罪にはならないと勘違いしたままこの罪を犯してしまっていた、なんてことになってはシャレになりません。
ということで、この罪がどういう場合に問題になるのかなどについて説明していきます。
占有離脱物横領罪とは?
占有離脱物横領罪は、正式名称は遺失物等横領罪(いしつぶつとうおうりょうざい)といい、刑法254条に規定されている罪です。
両者は呼び方が違うだけで、同じ意味と捉えていいでしょう。
以下のように規定されています。
(遺失物等横領)
第二百五十四条 遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
出典:刑法254条
どんな場合に罪になるの?
まず、対象になる物についてです。
以下の物を「横領」した場合に罰せられるとされています。
- 遺失物
- 漂流物
- その他占有を離れた他人の物
順番に見ていきます。
遺失物
「遺失物(いしつぶつ)」というのは、いわゆる落し物のことですね。
遺失物は占有者の意思に基づかずに占有を離れ、誰にも占有されていない状態にあります。
「占有(せんゆう)」というのは、物を事実上支配していることをいい、他人の支配を排除している状態のことです。
ですから、手に持っている場合はもちろんですが、手に持っていなくても自分の傍においているとか、あるいは自分が近くにいなくても、場所取りなどをして自分のスペースとして確保している所に物を置いているような場合も「占有」に含まれます。
遺失物はこのような「占有」を離れた状態の物のことですね。
ちなみに他人が「占有」している物(所有している物でなくても)を自分のものにすると「窃盗罪(せっとうざい)」になります。
漂流物
次に「漂流物(ひょうりゅうぶつ)」は、水中や水面にある遺失物のことをいいます。
例えば、池や川、海などに浮かんでいる物や底に沈んでいる物のことですね。
その他占有を離れた他人の物
「その他占有を離れた他人の物」というのは、上二つ以外の占有者の意思に基づかずに占有を離れ、誰にも占有されていない物のことです。
このような状態の物はいろいろ考えられますが、遺失物法12条にいう「錯誤により占有した物件」も含まれると解釈されています。
例えば誤って配達された郵便物や、敷地内に入ってきた他人の動物、風で飛んできたお隣の洗濯物などです。
横領とは?
以上にあげた物を「横領(おうりょう)」することでこの犯罪は成立します。
横領とは、物の経済的用法に従い所有者でなければできない処分をする意思で、自分の事実上の占有下に移すことをいいます。
つまり、所有者でなければできない使い方を、物の本来の使い方に従って使用することです。
例えば、遺失物のカメラを自分で使用する意思で自分のカバンに入れるなどといった行為ですね。
具体的な事例
以上が占有離脱物横領罪が成立するための要件ですが、具体的な事例について見ていきましょう。
持ち主などの「占有」があるかどうかが占有離脱物横領罪になるか窃盗罪になるかの大きな分かれ目なのですが、実はその境界が微妙な点があって、どちらの罪になる
かがわかりにくい場合があります。
ですので、これまでの裁判例でどのように判断されたかを少し紹介しておきます。
占有離脱物横領罪になる場合
判例(裁判例)では以下の物を領得した場合には占有離脱物横領罪になるとしています。
つまり、以下の物は持ち主などの「占有」は無くなっているということです。
- 電車の網棚にある忘れ物
- 窃盗犯人が道端に放置した自動車のタイヤ
- 転倒して放置された飲酒酩酊者の自転車(場所は失念している)
- 間違って多く受け取った金銭
- 廃品回収業者が買い取った古紙の中に紛れ込んでいた財布
- 誤配された郵便物
ゴミ捨て場にある自転車は?
ゴミ捨て場に捨ててある自転車を整備して自分のものにしようとする場合はどうなるのかと疑問に思われる方もおられるかもしれません。
持ち主がはっきりしていて、その持ち主の確認がとれれば問題はありません。本当に捨てられたものの場合、上で検討した
- 遺失物
- 漂流物
- その他占有を離れた他人の物
のいずれにも当たりませんので、占有離脱物横領罪になるということはありません。
ただ、私有地内のゴミ捨て場などで、そこにあるゴミが管理者の占有や契約している廃品回収業者の占有になるなどといったような場合には、当然勝手に持っていくことはできません。必ず占有者の確認が必要になります。
また、そういった事情がなくても、その自転車が盗難車である場合は、上の例にある「窃盗犯人が道端に放置した自動車のタイヤ」と似た場面になりますので、注意が必要です。
窃盗罪になる場合
次は以下の物を領得した場合には窃盗罪になる場合です。
つまり、以下の物は持ち主などの「占有」はまだ無くなってはいない、占有状態にあるということです。
- 飲食店経営者が店内で見失った、内縁の夫から預かった財布
- 旅館の便所内に客が忘れた財布
- 公衆電話機内に存置された硬貨
- バス待ちの行列に並んでいる者が途中で置き忘れて約20m離れた所にあるカメラ
- 80m離れた店に忘れ物を取りに帰るため、無施錠のまま持ち主が路上に停めた自転車
- 他人所有の土地へ一時的に行っても飼い主の元へ帰る習性のある動物
以上の裁判例は、あくまで個別的事情を総合的に判断して出された結論ですので、いつでもこういった結論に至るとは限りません。
また、理屈できっちりと分けられるというものでもありませんので、あくまで大まかな目安という程度に思っておいてください。
さいごに
以上、占有離脱物横領罪の説明と窃盗罪との違いなどについてでした。
比較的身近に遭遇しうる罪であることがお分かりいただけたかと思います。
罪になるかならないかという境界、あるいは窃盗罪との境界が、あいまいでよくわからないと思われている方は、一度確認していただけたらと思います。
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