司法取引(しほうとりひき)というと、アメリカ映画などで捜査官の取調べで、犯人が供述するかわりに罪を軽くするといった取引をするイメージがありますよね。
これまで日本では、そのような司法取引といったものは法律上認められていませんでした。
しかし、刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(刑事司法改革法案)により一部の罪で司法取引が認められることになりそうです(追記:2016年 (平成28年) 5月24日に衆議院で可決・成立しました)。
どのような司法取引制度が導入されようとしているか、その点について詳しく見ていきたいと思います。
司法取引とは?
「司法取引」という言葉は法律用語ではありませんが、刑事裁判で被告人が自分や他人の犯罪について、供述したり証拠を出したりする代わりに、検察官が刑を減軽したりすることをいいます。
二つの類型がある!
この司法取引には、以下の二つの類型があります。
- 自分の犯罪についての司法取引(自己負罪型)
- 他人の犯罪についての司法取引(捜査公判協力型)
1.は、文字通り自分の犯罪について司法取引をするものです。
証拠不十分で無罪になりそうな場合や、証拠集めに難航している場合などには、たとえ軽い罪であっても有罪にできるという利点があります。アメリカではよく行われている手法です。
2.は他人の犯罪についての取引ですが、他人とは主に共犯者を想定していると考えられます。
つまり、共犯者の罪について供述することにより、自分の罪を軽くするように取引をするというものです。
日本版司法取引は捜査公判協力型
今回の改正案では、1.の自己負罪型の規定はなく、2.の捜査公判協力型のみになります。
自己負罪型は、事件の真相がはっきりしなくなる可能性が高くなるため、真実を明らかにすることを重視する日本人にはなじまないので採用されなかったとの見方があります。
これに対して2.の捜査公判協力型は、自分とは別の他人(共犯者など)の犯罪について捜査に協力するものなので、真実は明らかになりやすいといえます。この点で、こちらが採用されたのだと考えられます。
おそらく捜査公判協力型が効果的なのは、複数の人物が関わっている犯罪で、主犯格となる人物や黒幕の犯罪を明らかにする場合などが考えられます。
対象となる犯罪は?
では、この日本版司法取引の対象となる犯罪について紹介します。
対象となる犯罪は、主に以下のようなものです。
- 刑法に規定の罪
強制執行妨害、競売等妨害など
公文書偽造、虚偽公文書作成など
有価証券偽造など
支払い用カード電磁的記録不正作出など
収賄、贈賄など
詐欺、恐喝、横領など - 組織的犯罪処罰法に規定の罪
組織的強制執行妨害目的財産損壊、組織的強制執行行為妨害など
組織的詐欺、恐喝 - 政令で定めるもの
租税に関する法律、独占禁止法、金融商品取引法の罪など、財政経済関係犯罪として政令で定めるもの - その他の罪
爆発物取締罰則、大麻取締法、覚せい剤取締法、麻薬及び向精神薬取締法、武器等製造法、あへん法、銃砲刀剣類所持等取締法などの罪
- 1.~4.を本犯とする犯人蔵匿、証拠隠滅、証人威迫など
ニュースなどでは、経済犯罪や組織的犯罪などが大きく取り上げられますが、結構たくさん対象となる犯罪がありますね。
司法取引の手続きは?
ちなみに、司法取引が成立するためには、検察官と被疑者、被告人との間で合意する手続きが必要になります。
この合意の手続きは、
被疑者、被告人は、
- 真実の供述
- 証拠の提出
- 証拠収集に協力
などの行為をすることと
検察官は、
- 起訴しない
- 起訴の取り消し
- 軽い罰条で起訴
- 別の軽い罪で起訴
- 即決裁判手続の申立て
- 略式命令の請求
などの行為をすることの合意が必要になります。
この合意のためには、弁護人の同意が必要になります。
ということは、被疑者、被告人と検察官が密室でやりとりするだけで成立するのではなく、弁護人のチェックが入るということですね。
いつから始まるの?
この司法取引について規定された改正案は、国会へ提出されています。
報道によれば、国会で可決されて公布されれば、2年以内に施行される見通しとのことです。
国会でスムーズに可決されるかによりますね(追記:2016年 (平成28年) 5月24日に衆議院で可決・成立しました。同6月3日に公布され三年以内に政令で定める日から施行される模様です)。
さいごに
以上、日本版司法取引について説明してきました。
他人(共犯者)の犯罪についてのみ、司法取引が可能ということがポイントですね。
もしこの制度が導入されるなら、より事件の真相が明らかになるように運用されて欲しいですね。