最高裁判所は2015年12月16日、「再婚禁止期間」を6か月間とする民法の規定について、憲法に反する(違憲)という判断を下しました。
正確にいうと、再婚禁止期間6か月のうち「100日を超える部分」が違憲とされました。つまり再婚禁止期間は100日までは憲法に反しないと判断されたともいえます。
憲法は最高法規ですから、これに反すると判断された法律は変更を迫られることになります。
ですから、今後近いうちに再婚禁止期間が100日になるように法律改正がなされることになるでしょう。
(追記:2016年6月1日、再婚禁止期間を100日に短縮する民法改正案が参議院で可決・成立しました。)
この記事では再婚禁止期間についての確認と、100日間に短縮されるのはいつなのかなどについて説明していきたいと思います。
再婚禁止期間とは?
ご存知の方も多いかもしれませんが、再婚禁止期間の意味について今一度確認しておきます。
改正前の民法では以下のように規定されていました。
第七百三十三条 女は、前婚の解消又は取消しの日から六箇月を経過した後でなければ、再婚をすることができない。
出典:民法733条
つまり、離婚や結婚の取り消しなどをした場合は、その日から6か月間は再婚できないと規定されています。これを再婚禁止期間あるいは待婚期間といいます。
嫡出推定の規定との関係で問題
これの何が問題なのかというと、再婚することが半年間制限されるということで、再婚の自由が制限されるということなのですが、以下の規定との関係で問題視されていました。
第七百七十二条 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
出典:民法772条
いわゆる「嫡出推定(ちゃくしゅつすいてい)」いわれるものです。
嫡出子(ちゃくしゅつし)というのは、法律上の夫婦の間に生まれた子どものことをいいます。
上記規定の「2」は、結婚してから200日後に生まれた子はその夫婦の子であること、離婚(または結婚の取り消し)をしてから300日以内に生まれた子は前婚の子であることが「推定」されるということが規定されています。
「推定」というのは、反論されてそれが証明されない限りは証明されたものとみなすことをいいます。
つまり、前者はその夫婦の子であること、後者であれば前の夫婦の間の子であることに誰も異を唱えなければそのように扱うということです。
もし、再婚禁止期間がなくて離婚後すぐに再婚したとしますと、この規定の「200日後」と「300日以内」との関係で前婚と後婚両方の夫婦の子であると推定される期間が出てきてしまいます。
そういった推定が重複する期間が出ないようにするために再婚禁止期間が定められました。
先ほど、改正前民法上は再婚禁止期間は6か月と書きましたが、このような推定が重複(父性推定の重複)する期間を避けるためであれば、100日にすれば足りると考えられます。
にもかかわらず、6か月とするのは再婚の自由などを不当に制限しているのではないかということが長年言われてきたという経緯がありました。
ここへきてようやく、最高裁判所が再婚禁止期間のうち「100日を超える部分」を違憲と判断しました。
違憲とされるとどうなるの?
では、法律が部分的にも違憲と判断されるとどうなるのでしょうか。
憲法は国の最高法規であることから、どんな法律も憲法に反する内容を規定することはできません。
そして、
第八十一条 最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。
出典:憲法81条
と規定されているように、最高裁判所が法律が合憲であるかどうかを最終的に審査する権限を持っています。
そうだとすると、最高裁判所が違憲であると判断した時点で、その法律は無効になってもよさそうにも思えます。
違憲とされた法律はどうなるのかについては3つの考え方があります。
- 客観的に無効であるとする(一般的効力説)
- 裁判で問題になった事件に限って適用が排除される(個別的効力説)
- 法律の定めに任せる(法律委任説)
しかし、司法権・立法権・行政権という国家権力を3つに分散させて互いに抑制均衡を保たせようとする三権分立制度との関係で、少し配慮が必要であると考えられています。
つまり、法律を作るのは立法権たる国会なので、司法権たる裁判所が実質的に法律を作ったかのような結論になるのは避けたいという価値判断が妥当と考えられます。
現状では、どの説に立っているのかははっきりしていません。
最高裁判所事務処理規則というものに以下の規定があるのみです。
第十四条 第十二条の裁判をしたときは、その要旨を官報に公告し、且つその裁判書の正本を内閣に送付する。その裁判が、法律が憲法に適合しないと判断したものであるときは、その裁判書の正本を国会にも送付する。
出典:最高裁判所事務処理規則14条
「第十二条の裁判」というのは、法令が違憲であると判断した裁判のことです。
実際の運用としては、1.の 一般的効力説に近い効果が及ぶような運用がされています。
事 実、今回の再婚禁止規定についての違憲判決が出た後、法務大臣が、法律が改正されるまでの間であっても、「離婚後100日を超えてから6ヶ月以内(違憲と された部分の期間)の女性を妻とする婚姻届が出された場合には受理する」旨、全国の法務局に通知をしたと報道されました。
この大臣の通知後は、離婚後100日を超えていれば婚姻届は有効に受理され、不備がなければ戸籍に記載されることになっていたようです。
ですから、法律改正前でも違憲とされた部分の規定は無効という扱いがされています。
100日に法律改正されのはいつ?
(追記:2016年6月1日、再婚禁止期間を100日に短縮する民法改正案が参議院で可決・成立しました。)
法律が改正されて効力が生じるまでの手続きは以下のような流れになります。
- 改正案の作成
- 内閣法制局のおける審査
- 国会提出のための閣議決定
- 国会へ提出
- 国会のおける審議
- 国会(衆参両議院)で可決(法律として成立)
- 公布
- 施行
国会は速やかに法律改正をすることが求められると考えられますが、現時点でははっきりとしたスケジュールは決まっていませんが、先ほど触れたように法務大臣が通知を出していることから、違憲判決後は、実質的には再婚禁止期間は100日に短縮されていると捉えていいのかもしれません。
(追記:)
2016年6月1日に成立した改正法では、再婚禁止期間が100日に短縮されただけでなく、再婚禁止規定が除外される場合を以下のように改正されました。
一 女が前婚の解消又は取消しの時に懐胎していなかった場合
二 女が前婚の解消又は取消しの後に出産した場合
出典:http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g19005049.htm
どこが変わったのかというと、離婚した時に妊娠していないことを証明(医師などによる)した場合には、再婚禁止規定は適用されないということです。
また、改正法では附則で、施行後三年を目途に再婚禁止について制度の在り方を検討する旨の規定も盛り込まれました。
なお、改正法は成立後、参議院の議長から内閣を経由して奏上された日から30日以内に公布され施行されます。
さいごに
以上、再婚禁止期間と違憲判決の効力などについてでした。
違憲判決が出た後は、法務大臣が離婚から100日経過していれば、6ヶ月以内であっても婚姻届を受理する旨の通知を出していることから、法律改正前でも事実上100日に短縮されているといえるかもしれません。
随分と長い時間がかかりましたが、ようやく法改正され、再婚禁止制度そのもののあり方も検討される道筋ができました。