法律

集団的自衛権をめぐる安保関連法案の憲法論議がわかりにくい理由

投稿日:2015年6月23日 更新日:



集団的自衛権の行使は違憲だ、いや合憲だ、と安保関連法案(安全保障関連法案)をめぐり議論が繰り広げられています。(追記:この法案は2015年9月19日未明に参議院を通過して成立しました。

これまでタカ派とされてきた憲法学者や歴代の内閣法制局長官や最高裁判所の裁判官経験者までもが「違憲」であることを続々と表明するという異例な事態になっています。

そういった状況の中、安保法案は衆議院を通過してしまいました。

これらの一連のニュース報道などを見ていても、なにが問題なのかがわかりにくくなっています。

どうしてこんなにわかりにくいのか、その理由を考えてみました。

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わかりにくいワケ

わかりにくいと感じる理由はズバリ、以下の3つの点が混じっているからです。

これらの区別を意識せずに議論すると、おそらく収拾がつかなくなると思います。

  1. 集団的自衛権の行使が必要かどうか(必要性の話
  2. 今回の安保法案が憲法に反するか(合憲性の話
  3. 合憲性の最終判断権者は誰か(合憲性判断権者の話

 

単に合憲か違憲かということを議論するだけであれば、憲法の条文と法案を照らし合わせて、法案のどこの部分が、憲法の条文のどの文言に反するのかということだけを議論すればいいのです。

前提として

まずは基本的な事柄を確認しておきましょう。

憲法(けんぽう)は、国の組織や統治の根本となるルールについて定めた法律で、天皇や大臣、国会議員、裁判官その他の公務員が守らなければならない法律です。
つまり、国家権力を縛るための法律であって、国民に向けられた法律ではありません。

その憲法は、国の最高法規(さいこうほうき)といわれ、法律の中でも頂点に立つ法律ですから、どんな法律でも憲法に反する内容であってはいけません。

今回問題となっている安全保障関連法案(国際平和支援法(新法)と自衛隊法やPKO協力法など10の法律の改正)が、憲法に反するのではないかということが言われています。

憲法に反していることを違憲(いけん)といい、憲法に合致していることを合憲(ごうけん)といいます。

法案というのは、法律の元になる案文のことで、これが立法府である国会で審議され、衆参両議院で可決されれば、法律して成立することになります。

1.集団的自衛権の行使が必要かどうか(必要性の話)

集団的自衛権の行使については何年も前から議論がされてきています。

必要になってきているのかどうかという点について深入りはしませんが、国際情勢を吟味した結果、集団的自衛権の行使が必要であるという結論はありうると考えられます(しかし、必要であるという場合は、必要になった理由を説明する必要はあります)。

しかしながら、必要であるかどうかという必要性の話と、今回の安保法案が違憲であるかどうかという合憲性の話は別の話になります。

集団的自衛権の行使は必要であると考える人は、今回の法案も合憲だという傾向があるのかもしれませんが、それは論理必然ではありません。

つまり、集団的自衛権の行使は必要であると考えている人であっても、今回の法案は違憲であるという結論はありうるわけです。

集団的自衛権の行使は必要であるが、今の憲法の範囲内では無理(違憲)だということになると、憲法改正という方向に向かうべきという考えが成り立ちます。

今回、違憲と表明している憲法学者さんの中にも、そのような方はおられるのではないでしょうか。

逆に、集団的自衛権の行使は不要と考えている人であっても、今回の法案は合憲であるという結論もありうるわけです(合憲か違憲かという話は単に法案が憲法の文言に反しているかどうかというチェックだけで決まるものですから)。

その場合、集団的自衛権の行使は不要と考えている人は、この法案は違憲というのではなく反対というのが論理的です。

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2.今回の安保法案が憲法に反するか(合憲性の話)

先ほど、少し触れましたが、安保法案が憲法に反するかどうかは、提出された法案の内容が、憲法の条文に反するかどうかを判断するだけの話になります。

問題となる憲法の条文は以下です。

第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

出典:http://www.houko.com/00/01/S21/000.HTM#s2

普通に読めば、戦争もしないし戦力も持たない、以上。で終わりそうですが・・・。

実際は、文言の意味を細かく理由付けをして自衛隊個別的自衛権まではOKという解釈をしてきたわけです。

少し説明すると、前半部分(1項)の「国際紛争を解決する手段としては」という文言の意味を侵略戦争という意味で、自衛戦争は含んでいないと解釈しています。

逆に言うと、自衛のための戦争は放棄していませんよということです。

これらの解釈をめぐり憲法学者の方の多くがなぜ違憲といっているのかについて、わかりやすい記事がありましたので、説明はこの記事に譲ります。

なぜ、憲法学は集団的自衛権違憲説で一致するのか? 木村草太・憲法学者

3.合憲性の最終判断権者は誰か(合憲性判断権者の話)

今回の法案で憲法学者の方が違憲であると言ったとしても、それはなんら拘束力をもたないという議論があります。

つまり、何人の学者さんが違憲であるといったところで、国会議員はその見解に従わなければならないわけではありません。

法案が合憲なのか違憲なのか決めるのは誰なのでしょうか。

手続き的には、国会議員の賛成多数で可決されれば法律として成立します。

しかし、成立してしまった法律が違憲だとしたらどうするのでしょうか。

憲法には以下のような条文があります。

第81条 最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。

出典:http://www.houko.com/00/01/S21/000.HTM#s6

なるほど、最高裁判所が判断してくれるのか。と言いたいところですが、単に出来上がった法律を審査してくださいというだけでは受け付けてもらえません。

憲法に適合するかの審査は、判例・通説により付随的審査制(ふずいてきしんさせい)といって、具体的な権利義務関係についての争いや、一定の法律関係の存否に関する争いなどの具体的な事件に付随してしか判断してもらうことができないことになっています。

要するに、何か具体的な事件が起き、その解決に必要な限度でしか、裁判所は法律の合憲性について判断できないのです。

しかも、仮に事件として裁判になったとしても、裁判所は統治行為(とうちこうい)といって、国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為については、憲法判断を回避することがあります。

過去に砂川事件という安保条約の合憲性が争われた事件では、憲法判断を避けました。

ですから、仮に今回の法案が成立して合憲性を争いたいとしても、裁判所は憲法判断を避ける可能性があります。

そうだとすると、一体誰が最終的に憲法に適合するかの判断をするのでしょうか。

内閣が国会に提出する法案を事前にチェックしている内閣法制局(ないかくほうせいきょく)が事実上の法の番人といわれてきました。

今回の法案についての内閣法制局長官は当然ながら合憲と仰っています。

しかし、歴代の内閣法制局長官が違憲であると表明されたりもしています。さて、どうなることでしょうか。

裁判所が法律の憲法判断を避けたがる理由は、政治的なことは政治で解決してほしいという役割分担の思想によるものですので、やはり国会での議論が重要になりますね。

さいごに

以上、 安保法案の合憲性の議論がわかりにくい理由として、3つの論点が入り混じっているということと、それぞれの論点について説明してきました。

集団的自衛権の行使が必要であるというなら、必要であるという事実をしっかりと説明していただきたいと思っていましたが、この法案は衆議院を通過してしまいました。参議院で否決されたとしても、再度衆議院で3分の2以上の賛成で成立する可能性が高まっています。

集団的自衛権の行使を解釈によって認めるのはどうしても無理があるというのなら、憲法改正を視野に入れた議論をする必要があるのではないでしょうか。

国民にわかりにくい状態のまま、いつの間にか決まっていたということにならないように見守っていきたいものですね。

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