威力業務妨害(いりょくぎょうむぼうがい)という罪、ときどきニュース報道などで耳にすることがありますが、これは一体どんな罪なのでしょうか。

少し前には、お祭りが行われる場所にドローンを飛ばそうとしていた少年がこの罪で逮捕されました。

また、人が多く集まる公共の場所や新幹線などの乗り物に危険物を仕掛けたなどと、インターネット上に嘘の書き込みなどをした場合にも、書き込んだ人がこの罪で逮捕されることもあります。

この威力業務妨害罪と似たものに、偽計業務妨害罪(ぎけいぎょうむぼうがい)というものがあります。

法律上は、同じ「業務妨害罪」ということで連続して規定されていて、犯行の手段が少し違うだけで共通点も多い罪といえます。

ということで、威力業務妨害罪について、偽計業務妨害罪と合わせてわかりやすく説明していきます。

Sponsored Links

威力業務妨害罪とは

刑法(けいほう)という法律には、業務妨害罪(ぎょうむぼうがいざい)について以下のように規定されています。

(信用毀損及び業務妨害)
第二百三十三条  虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

(威力業務妨害)
第二百三十四条  威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。

出典:刑法(http://law.e-gov.go.jp/htmldata/M40/M40HO045.html)

信用毀損(しんようきそん)」という罪についてもあわせて規定されていますが、ここでは触れずにおいておきます。

威力業務妨害罪は、偽計業務妨害罪と連続して規定されています。

刑法234条には、「威力」を用いて人の「業務」を妨害したとしか書かれていませんが、一般的に次のように解釈されています。

まず「業務」とは、自然人、法人その他の団体が職業その他の社会生活上の地位に基づいて反復継続する事務(仕事)のことをいいます。

社会生活上の地位」というのと、「反復継続」というのがポイントです。

少しわかりにくい表現ですが、企業や個人事業主の営業活動・事業活動はもちろん含みますし、慈善団体や宗教団体の行う継続的な活動も含まれます。

ちなみに、娯楽として行う行為や、家庭生活における仕事は含まれませんが、文化的活動や経済活動などは含み、報酬の有無は問われません。

例えば、宗教団体の奉仕活動なども含まれるということになるので、ドローン少年で問題になった、宗教的行事においても、この罪が問題になったわけですね。

このようにみると、一般的にイメージされる「業務」とは、少し広い意味かもしれません。

次に、「威力」についてです。

威力」とは、犯人の威勢、人数および四囲の状勢からみて、人の自由意思を制圧するに足りる勢力のことをいいます。

要するに、自由な意思で決めたり、行動したりすることに対して圧力をかけるようなことをすることですね。

その手段が暴行や脅迫などまでいかなくても、自由意志を制圧する程度の勢力を示すことで足りるわけです。

威力業務妨害罪とは?偽計との違い1

ですから、場合によっては、落下したりして人に危害を加える危険のあるドローンを飛ばすようなことでも、「威力」にあたるとされることもあるわけです。

ちなみに、危険なことが起きるなどを予告することでも、たとえそれが嘘(虚偽)でも、人の自由意思を制圧するに足りる勢力と判断されれば、威力業務妨害罪が成立します。

このように、自由意志を制圧するに足りる勢力を示す行為というのは、さまざまなものがあり、一概に規定できるものではありません。

例えば、

  • 弁護士のかばんを力づくで奪う
  • 電車の運転手を強打して電車の運転を妨げる
  • 競馬場に釘を撒き散らす
  • 満員の食堂に蚊をたくさん撒き散らす

といった行為でも、この罪になったケースがあります。

ちなみに、条文には「業務を妨害した」と書かれていますが、実際に業務妨害による被害が出る必要はなく、以上のような行為によって業務が妨害される危険が発生するだけで犯罪は成立すると考えられています(具体的危険犯)。

Sponsored Links

偽計業務妨害罪とは

では、偽計業務妨害罪はどんな罪でしょうか。

この罪の「業務」も先ほどと同じ意味です。

偽計」とは、人を欺き・誘惑し、または人の錯誤、無知を利用することをいいます。

つまり、騙したり、他人の勘違いや無知を利用することをいいます。

例えば、

  • 出前をとるつもりがないのにお店に嘘の注文をする
  • ある商品について歪曲した事実を書いたビラを作成して配布する
  • マジックホンという機械を使って電話料金の計算を誤らせる(昔の電話)
  • 漁場の海底に障害物を沈めて、漁網を破損させる

などといった行為が当てはまります。

こちらの場合も、以上のような行為で業務妨害の具体的危険が生じるだけで犯罪が成立します。

威力業務妨害罪とは?偽計との違い

「威力」と「偽計」の区別

実は業務妨害罪において、「威力」であるのか「偽計」であるのか区別が微妙な場合があります。

例えば、偽計業務妨害罪の最後の例で紹介した、漁場の海底に障害物を沈めて漁網を破損させる行為は、漁網を破損させるわけですから、「威力」と考えることもできそうな気もします。

両者の区別については、「偽計」は相手の錯誤(勘違い)を誘発するかどうか、「威力」は人の自由意志を制圧するかどうかによって区別をすることになっています。

これらは、絶対にはっきりと区別できるというものではなく、ケースバイケースに判断されることになります。

大学入試カンニング事件は?

以前、大学の入学試験中に受験生が、携帯電話を使用して質問サイトに問題文の投稿をして質問をし、第三者が複数回答していたという事件がありました。いわゆる

学入試問題ネット投稿事件です。

このような行為に対して、入試を行った大学側に対する偽計業務妨害の疑いがあるとして、この受験生は逮捕されました。

世間一般に言われている「カンニング行為」というのは試験中の不正行為をいい、実際に父性によって得た情報を書き写すまで至らない場合も含まれます。

理屈としては、きちんと受験をするふりをしてカンニング行為をしたことにより、大学側にカンニング対応の手間が発生したために、入学試験という業務が妨害されたということのようです。

カンニング行為そのものが即この罪に該当するかということは少し微妙な点ではあります。

結局この事件で、その後この受験生は起訴されなかったようですので、威力業務妨害罪が成立するかどうかはわかりません。

ですから、試験のカンニング行為などの不正行為がいつも威力業務妨害罪になるというわけではないと考えたほうがよさそうです。

さいごに

以上、威力業務妨害罪偽計業務妨害罪について説明してきました。

業務を妨害するための手段として、「威力」と「偽計」があり、「威力」は人の自由意志を制圧すること、「偽計」は人の勘違いを誘発したり、利用したりするということでしたね。

そして、これらによって業務を妨害する危険が生じることにより罪が成立するということでした。

悪ノリがすぎると冗談のつもりの行為でも、場合によっては業務妨害罪になってしまうことにもなりかねませんので気をつけましょう。

Sponsored Links