TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)が締結されれば、日本における著作権侵害(著作権法違反の行為)が非親告罪(ひしんこくざい)になるといわれています。
仮に非親告罪になった場合、クリエイターたちの創作活動を萎縮させ、日本の文化に大きな影響があるのではないかという懸念が一部でなされています。
そのような懸念は現実のものとなるのでしょうか。
まだTPP締結には至っていない段階ですが、いずれ締結に至ると予想できますので、著作権などの知的財産分野にも何らかの影響があるのは必至です。
TPPの知的財産権分野の内容は、著作権侵害の非親告罪化だけではなく、著作権保護期間の延長、法定損害賠償金制度の導入、米国型プロバイダーの義務・責任の導入など他にも色々とありますが、この記事では心配する声が多い著作権侵害が非親告罪化の影響や対応策などについて考えてみたいともいます。
非親告罪化とは
すでにご存知の方も多いかもしれませんが、著作権侵害の非親告罪化について簡単に説明します。
現在の日本の著作権法では、著作権侵害行為は親告罪(しんこくざい)となっています。
親告罪というのは、著作権などの権利者が著作権侵害者に対して、告訴(こくそ)をしないと、起訴(きそ)(捜査機関が訴えを提起すること)して処罰することができないことになっている犯罪のことをいいます。
告訴というのは、権利者が捜査機関に対して、犯人を処罰してくださいと申し出ることですね。親告罪や告訴については以下の記事に詳しく書いていますので、よろしければ参考にしてくださいね。
メリット
非親告罪になれば、著作権侵害行為は捜査機関だけで起訴までもっていけるということですね。
これはデメリットと裏表の関係ともいえますが、例えば、現行法では著作権を明らかに侵害しているにもかかわらず著作権者の告訴がない場合、捜査に着手することが遅れるといったことがあります。
なぜ捜査が遅れるかというと、現行法では捜査自体は可能ですが、起訴できなければ捜査してもあまり意味がないという判断から捜査が後回しにされやすいからです。
しかし非親告罪になると、そういったことはなくなるため早い段階から捜査に着手される可能性が高くなるわけですね。
コンテンツ販売者の視点として、著作権を侵害する違法コピーが多少出回っても正規品の売り上げに影響は与えないという説があります。
その説を理由に、正規品の購入者など第三者がいくら指摘してもは、違法コピーに何ら対策をしない著作権者も存在します。
正規品の購入者としては、そのような違法コピーが野放しにされることは歯がゆい思いをするわけですが、そういった場合でも非親告罪化されると、違法コピー取り締まられる可能性は高くなるというメリットはあります。
デメリット
日本はコミケ(コミックマーケット)などが盛んで、そこではパロディや二次創作物(二次的著作物)などの作品が多くあって日本独自の文化的発展に寄与しているといわれています。
これらの作品は、著作権者の許諾を受けていないものもあるものの、著作権者も事実上黙認しているという状態になっているといわれます。
このような状況の中で、非親告罪化がなされると、著作権者が必ずしも望んでいない摘発が行われる可能性や、パロディ作品などを創作しようとするクリエイターが萎縮してしまってクリエイティブな作品が生まれる土壌がなくなるというデメリットが指摘されます。
非親告罪化でどうなるのか?
著作権侵害の非親告罪化については、楽観論と悲観論があります。
それぞれについてみていきましょう。
楽観論
非親告罪化が実現しても現状と大きく変わることはないというのが、楽観的な見方としてあります。
韓国では米韓FTA発効によって、非親告罪化の対象が拡大されたものの、大きな混乱は起きていないことから、親告罪から非親告罪への変更はそれほど大きな影響はないとの見方もあります。
悲観論
しかし、今のところ悲観論のほうが強いのではないかと思われます。
例えば、いつ摘発されるかわからないという心配からクリエイターが萎縮することによって、先ほどあげたパロディなどの二次創作物などの文化が縮小するという懸念があります。
また、企業などにおいて業務上クライアントなどから届いたメール等を、社内のメーリングリストなどで共有したり、あるいはプレゼン資料として著作物をコピーしたりする行為などが摘発される可能性がでてきます。それらのために、いちいち著作権者の許可を求めるとなると、手間も時間もかかることになります。
二次創作にしろ、メールの共有などにしろ、現行法のように親告罪である場合は、たとえ形式的に法に反することではあっても、誰も問題にしないし権利者も告訴しようとも思わないケースが多いのかもしれません。
しかし、非親告罪となり、証拠も明らかに存在するという状態になった場合に、捜査機関等に通報が殺到するということになると、捜査機関は動かざるをえないと判断するかもしれません。
特に最近では、法律違反が明らかな行為が映っている動画などが動画投稿サイトなどにアップされ、その視聴者からの通報がきっかけで検挙に至るケースも多くなっています。
動画などで証拠が明らかな以上、通報があったりネット上で炎上などすれば捜査機関としても放っておくわけにはいかなくなる可能性は高まります。
これまでは、著作権者が黙認していれば、事実上お咎め無しだったことが、非親告罪になればそうはいかなくなり、ネットで炎上または通報されるかどうかが摘発の分かれ目になってしまいかねません。
どうすればいいのか?
そういったことを避けるためには、一つの案として著作権者が二次創作を許容する旨をわかりやすく明示できるような仕組みをつくるということが考えられます。
ただ現状、著作権者が黙認ということが多いといっても、「パロディ化してもいいですよ」と積極的に権利を与えることと、望ましくはないないけども、あまり大きな問題にはなりそうもないので「まあいいか」と消極的に黙認することとには、質的な差があると思われます。
ですから、積極的にパロディを認めることを他人に権利として付与することには抵抗があるという人は多いかもしれませんので、うまく機能させるには課題は多そうです。
また、すでに一部ではこういった仕組みも存在するようですが、あまりうまく機能はしていないようです。
もう一つの案として、アメリカのフェアユースのような例外規定を設けるということも考えられます。
フェアユースというのは、著作権者の許可を得なくても、予め定められた条件を満たしている場合は二次創作をすることができるという著作権法の例外的な規定です。
ちなみに、日本の現在の法律では、こういった例外規定はありません。ですから、フェアユースのような例外規定を設けるというのも一つの手ではないでしょうか。
さいごに
以上、著作権侵害が非親告罪化の影響や対応策などについて考えてきました。
二次的著作物などについていえば、現状においてもグレーになってしまっている部分があることから、何らかの法整備は必要ではないかと思います。
現実と法律との間に乖離がみられるなら、現実の実態に法律を合わせるようにルールを変えていけばいいのではないでしょうか。
非親告罪化をきっかけにして、よりよいルールがつくられてほしいですね。
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