紙の書籍を電子データ化してパソコンやタブレット端末などに取り込む、いわゆる「自炊」行為。
書籍を持ち歩くのが不便と思われる方や、書籍の保管場所に困っている方などには、大変便利方法です。
この自炊行為は、自分でやるとなると結構な手間がかかります。
このような面倒な作業を一手に引き受けてくれるのが自炊代行業者さんです。
しかし本の著者である作家さんなどが中心となって、自炊を代行する行為は著作権を侵害するのではないかということで裁判が続けられてきました。
2014年10月22日に高等裁判所で作家さん側の勝訴判決が出て、2016年3月16日、最高裁判所が上告受理申立不受理決定をしたことで、高裁の判決が確定しました。
このことによって、自炊代行については一定の基準ができたといえます。
この記事では、この自炊代行が違法となる場合、適法となる場合などについて説明していきます。
自炊代行とは
自炊(じすい)とは、書籍や雑誌などのページ内容をスキャナーなどで読み取り、PDFファイルなどのデジタルデータに変換することをいいます。
きれいにデータ化しようとすると、ページを糊付けしている部分を裁断する必要がありますし、一般的な書籍は200ページ前後ありますのでそれらを1ページ1ページスキャニングしていくことが必要です。
このようにしてデータ化したものをipadなどのタブレット端末などに取り込んで電子書籍として利用するのが一般的です。
「自炊」というのは、このようにデータを端末などに自分で入れる、すなわち「自ら吸い入れる」ことが語源と考えられています。
自炊代行というのは、この自炊行為を代行することですが、一般的にはそれを専門に行う業者さんが代行する意味で使われることが多いようです。
著作権法上の問題
ではこの自炊、あるいは自炊代行の何が問題なのでしょうか。
自炊や自炊代行の話でいつも問題になるのが著作権法です。
この法律では書籍や雑誌などは著作物とされ、作者の著作権者としての権利(著作権)が定められています。
もっとも著作権者でなくても、条件を満たせば「複製」、つまりコピーをすることができることも定められています。
自炊をめぐる議論では、その条件を満たすかどうかということが問題となって争われてきました。
その条件は、著作権法30条1項に規定されています。
(私的使用のための複製)
第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
出典:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S45/S45HO048.html
つまり、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用する」(私的使用)が目的であれば、コピーすることが出来るというわけですね。
ちなみに、「次に掲げる場合を除き」とは、
- 公衆が使えるダビング機などを使用する場合
- 技術的保護手段を回避して複製する場合
- 違法配信されているコンテンツをダウンロードする場合
を除くということです。これらの場合は私的使用目的でも許されません。
話を戻すと、自炊や自炊代行が「私的使用」の範囲内であれば許されるということです。
自炊することは許される?
ではまず、書籍などの購入者が自分で自炊することについてです。
先ほどの条文で「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用する」という私的使用目的であれば、自分で書籍の内容をデータ化することは許されます。
あくまで個人で楽しむためにデータ化することは問題ありません。
自炊代行は許される?
では自炊を代行してもらうことは許されるのでしょうか。
実は、自炊行為を業者がお客を代行してデータ化することが「私的使用」の範囲内であるかどうかということが問題とされています。
この点について、以下の二つの見解が対立していました。
- お客が主体となって私的使用の範囲で自炊することを、自炊代行業者は単に作業を補助しているにすぎない
- お客からの依頼を受けているとはいえ、自炊代行業者が主体となってデータ化している
これらの違いは、自炊の主体がどちらかということです。
先ほど書籍の購入者が自分で自炊することは問題ないといいました。
少しわかりにくいですが、書籍の購入者が主体となって、代行業者をいわば自分の手足のような補助者として使ったと解釈できるか、そうでないかという点で見解が分かれました。
自分の手足として、誰かにやってもらう場合は、依頼された人は言われたとおりのことをするだけですから、そのひとには特に権限はありません。
そのように考えると、書籍の購入者が自分で自炊したことと同じと考えられるため問題はないという考え方ができます。
しかし、高等裁判所はそのように判断しませんでした。
例えば、自炊してデータ化する過程については問わないので、手法などについてはお任せしますという依頼の仕方ですと、依頼された側には自炊方法など一定の権限があるといえます。
そうなると、自炊の主体は代行業者にあると解釈できる余地があります。しかも、代行業者として大々的にやっているとなるとなおさらです。
ということで、自炊代行業者が主体ということになると、もはやお客の私的使用の範囲を超えることになるため、認められないということになります。
裁判例ではこのような考え方で、問題となった事案では自炊代行業者の行為は認められないと判断しました。
高等裁判所がこのように判断して「自炊代行の差し止め」を認め、それに対する上告を最高裁判所が棄却し、判決は確定しました。
このような結果になったことで、一般的にも作者に無断で行う自炊代行は原則として認められないという見解が有力になりました。
自炊代行が許される場合
では、どのような場合に自炊代行が許されるのでしょうか。
まず、先ほど説明したように、自分で購入した書籍を私的使用目的で自炊することは認められます(当然ですが他人の書籍を借りて自炊したり、自炊したデータを他人にあげたりすることはできません)。この場合は著者の許諾は不要です。
そして、これまでの裁判の結果から、作者に無断で自炊代行業者に依頼してデータ化してもらうことは原則として法律違反になるという見解が有力になりました。
もっとも、以下のような場合には他人に自炊してもらうことはできます。
- 作者(著作権者)の許諾がある場合に、自炊代行業者に依頼する
- 作者(著作権者)の許諾がない場合に、アルバイトや秘書など(自分の手足となる補助者)に作業してもらう
1.の場合には、作者の許諾がありますので、問題はありません。
2.の場合には、あくまで書籍の持ち主が指示を出して補助者に作業をしてもらうにすぎず、書籍の持ち主が主体となっていますので、私的使用の範囲内であれば問題ありません。
おわりに
以上、自炊代行についての著作権法上の問題などについての説明でした。
現在自炊代行業者さんの多くは、自炊を禁止する旨表明している作家さんなどの名前を公表し、その著者の書籍の自炊は行わないという対応をし、それ以外の著者の書籍についてはお客の側で著者に許諾を得るようにお願いしているようです。
このようにして著者から許諾を得られるのであれば、自炊代行も法的な問題はクリアーしているといえます。
著作権を尊重しながら、便利に利用していきましょう。
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