いわゆる「ヘイトスピーチ規制法(対策法)」という法律の案が、2016年5月24日が衆議院を通過し成立しました。

ヘイトスピーチに関しては、以前から法規制が必要であるとの意見が強く、法制化に向けての動きがありました。

民主党をはじめとする野党が法案を国会へ提出していましたが、与党からの反対があり、なかなか実現できていませんでした。

そこへ、与党がヘイトスピーチを規制する法案を提出し、今回それが実現しようとしています。

今回実現する見通しであると報道されているヘイトスピーチ規制法とは一体どういった内容なのか、

この法律の中身ついてわかりやすく説明していきたいと思います。

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ヘイトスピーチ規制法とは?

今回成立したヘイトスピーチ規制法は、正式名称「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」といい、自民・公明両党(与党)が提出したものになります。

もっともそれ以前に民主・社民・共産党など(野党)が共同で参議院に提出していた「人種等を理由とする差別の撤廃のための施策の推進に関する法律案」というものもあり、こちらもヘイトスピーチを規制するもので、通称ヘイトスピーチ規制法案といわれていましたが、こちらは否決されました。

具体的内容

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今回成立した与党案の内容について説明します。

この法律の目的は、日本以外の国や地域の出身者への不当な差別的言動の解消のための基本理念や基本施策を定めて推進することです。

次にヘイトスピーチの定義、つまり「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」 の内容についてです。

この「本邦外出身者」とは、以下の二つを満たす人のことで、

  • 日本国外にある国もしくは地域の出身者又はその子孫
  • 日本の国に適法に居住していること

 

差別的言動」とは、

差別的意識を助長し又は誘発する目的で公然とその生命、身体、自由、名誉又は財産に危害を加える旨を告知するなど、本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する

出典:http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g19002006.htm

ことです。

なお、上記は法案提出時の文言ですが、成立した法律は以下の修正が加えられています。

「又は財産」を「若しくは財産」に、「告知する」を「告知し又は本邦外出身者を著しく侮蔑する」に改める。

出典:http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/syuuseian/14_A2E.htm

 

そのほかの内容としては、

  • 基本理念(国民の差別解消への努力義務)
  • 国及び地方公共団体の責務(差別解消への取り組み義務(地方公共団体のみ努力義務))
  • 相談体制等の整備(国は義務、地方公共団体は努力義務)
  • 啓発活動等(国は義務、地方公共団体は努力義務)
  • 人権教育の充実等(国は義務、地方公共団体は努力義務)

 

を定めています。

これらの規定には罰則はなく努力義務も多くなっています。

努力義務というのは、努力は必要ですが結果は求められていないという意味ですね。

その意味で、理念法であるともいわれます。

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野党案との違い

与党案に先駆けて出されていた野党案は、人種等(人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身)を理由とする差別と不当な差別的言動を禁止し、上記与党案の内容で努力義務ではなく義務を課す内容でした。

それにプラスして、

  • 財政上の措置等
  • インターネットを通じて行われる人種等を理由とする差別の防止のための自主的な取組の支援
  • 地域における活動の支援
  • 民間の団体等の支援
  • 調査の実施
  • 関係者の意見の反映
  • 有識者による審議会の設置

 

など具体的な義務規定もありました。

罰則はないものの、与党案よりもよりヘイトスピーチ抑止のためにより実効的な内容といえるものでした。

しかし、各党のさまざまな思惑により、野党案が否決され、与党案が成立見通しという結果となりました。

与党案は、ヘイトスピーチ抑止への実効性が乏しいとの見方がある一方、ヘイトスピーチが不当な差別と明記されることでコンセンサスが得られる点では一歩前進だと評価する声もあります。

問題点は?

成立見通しの与党案について、問題があると指摘されている点をまとめると以下になります。

  • 実効性について
  • ヘイトスピーチの定義について
  • インターネット上での表現行為について

 

これらを順番に説明していきます。

実効性について

先ほど説明したとおり、努力義務の規定が多いということから、ヘイトスピーチを抑止するための実効性に乏しいのではないかという指摘がされています。

この点に関しては、ヘイトスピーチの「実態等を勘案し、必要に応じ、検討が加えられる」という附則が加えられることになりました。

ヘイトスピーチの定義について

この法案の肝であるヘイトスピーチ(「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」)の意味についてです。

先ほど「本邦外出身者」とは、

  • 日本国外にある国もしくは地域の出身者又はその子孫
  • 日本の国に適法に居住していること

 

の以上二つを満たす必要があると説明しました。

一つ目については、日本国以外の出身者かその子孫にということですが、これでは沖縄出身者やアイヌは対象外であるのかという問題が指摘されています。

二つ目の「適法に居住」という点については、在留資格がない外国人はどうなるのかという問題が指摘されています。

これらについては、対象以外の人に対する差別を許す趣旨ではなく、憲法および国際条約の趣旨に鑑み対処するという附帯決議がなされることで決着しました。

また「差別的言動」についての定義があいまいとの指摘も依然としてあります。

インターネット上での表現行為について

野党案ではインターネット上での差別防止のための規定がありましたが、与党案ではそういった規定はありません。

インターネット上でも差別的言動が行われることがあることから、これについても規制対象にすべきとの意見もあります。

さいごに

以上が成立見通しのヘイトスピーチ規制法案の内容と問題点などについてでした。

実効性や問題点などについての指摘もありますが、成立すれば一歩前進することになるは確かですので、差別的言動抑制のための意識を高めていきましょう。

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