ヘイトスピーチへの対処などを内容とする、大阪市の条例案(「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例案」)が、2015年1月15日に可決されました。
近年耳にすることが多くなったヘイトスピーチ。
ヘイトスピーチとは一般的に、人種、国籍、思想、心情、宗教、職業などの属性に基づいて個人または集団に対して、差別的表現な侮辱的な表現を行うことであると理解されています。
聞くに堪えない言葉で特定の属性をもつ人々に対して差別的な表現が行われているということがメディアに取り上げられるようになってきました。
少し前では、ある団体と前大阪市長である橋下徹氏との間にヘイトスピーチをめぐって話し合いが持たれたものの、物別れに終わったことなどが話題になったりもしました。
ヘイトスピーチを規制する法律は今のところなく、国連の人種差別撤廃委員会から法整備等を勧告されたこともあります。そんな経緯もあって、日本でも法整備の必要性が検討され始めています。
それに先駆けて大阪市は今回の条例を制定することになりました。
この記事ではその条例の中身について説明していきます。
ヘイトスピーチ対策条例の内容
では今回成立した条例の主な内容についてみていきましょう。
ヘイトスピーチの定義
この条例でヘイトスピーチと定義づけられるのは、以下の要件を満たす行為です。
- 対象:人種又は民族に係る特定の属性を有する個人又はその個人の属する集団
- 目的:社会からの排除等
- 行為:侮蔑・誹謗中傷を不特定多数の人が知りうるような状態で行うこと
行為は、表現活動だけでなく、それを記録した印刷物やDVDなどの記録媒体の頒布・販売や上映、動画サイトへの投稿などの拡散活動も対象とされます。
ヘイトスピーチの判断は誰がするの?
何かしらの表現活動が行われた場合に、誰が見ても明らかヘイトスピーチにあたるとわかる場合だとは限りません。
ヘイトスピーチなのかどうか微妙なこともありえますよね。
そんなときに重要になってくるのは、誰がヘイトスピーチかどうかを判断するかということです。
その点については、この条例では、ヘイトスピーチに該当するかどうか判断する「大阪市ヘイトスピーチ審査会」というものを設置することを定めています。
上記のヘイトスピーチの定義に当てはまるかをきちんと判断していくには、それなりの専門的判断が必要になってきます。
表現の自由という憲法で保障された重要な権利を制約するものになりますので、慎重さも求められます。
そこで、この審査会のメンバーは、学識経験者等で構成されるとされています。
ヘイトスピーチをするとどうなるの?
では、ヘイトスピーチを行うとどうなるのでしょうか。
今回の大阪市の条例では、そのヘイトスピーチの拡散防止措置をとるとともに、その内容が拡散しないよう十分に留意しながら、大阪市としての認識を公表することとされています。
また、今後のヘイトスピーチの抑止になると認められる場合には、ヘイトスピーチをしたものの氏名等を公表することとされています。
要するに、大阪市として「ヘイトスピーチであると認定した」ことを公表し、ヘイトスピーチの抑止になるような場合には、「氏名も公表」するということです。
ちなみに今回は実現しませんでしたが、条例案の段階では、ヘイトスピーチに関する訴訟や仮処分等をする場合には、費用の貸付を行うなどの案も検討されていたようです。
さいごに
ヘイトスピーチは日本人が在日の外国人に対して行われるというイメージがありますが、特定の民族や国籍を理由とする差別を防止するという趣旨からすると、当然ながら日本人に対するヘイトスピーチも条例では規制の対象になります。
どんな属性の人々に対してもヘイトスピーチをすることは許されないのは当然です。
ヘイトスピーチは近年問題になったかのような感がありますが、実は歴史的なものであり、社会文化に内在する問題であるとの指摘もあります。
突き詰めていけば根深い問題があることは事実のようです。
ヘイトスピーチをしたところで何か建設的な議論につながるとは考えにくいですから、この条例をきっかけに、より建設的な議論ができるような土台がつくられていくことを望みます。
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