度々ニュースなどで取り上げられることのあるごみ屋敷問題

自宅をどのようにしようと基本的には住人の自由ですが、様々な形で周囲に迷惑がかかっていたり、家屋の倒壊や火災の恐れがあるなどで周囲が危険にさらされているとなれば、何らかの対処が必要になってきます。

しかしながら、現行の法律だけではごみ屋敷問題に対応できていない面があり、周辺住民や自治体を悩ませてきました。ごみ屋敷が社会問題化するに伴い、それに対処すべく条例を制定する地方自治体が増えてきています。

自身がごみ屋敷の住人であれば、自分で片づけるなり、業者へ依頼して片づけてもらうなりして対処することができますが、他人のごみ屋敷は勝手に手出しはできません。

他人の財産権やその他の権利を侵害することなく、話し合いでごみ屋敷問題を解決できることが理想です。

しかし、なかなかそうはいかない場合もあるのが現実です。そういった場合も含めて対処していけるように定められたのが、いわゆる「ごみ屋敷(対策)条例」といわれるものです。

この記事では、主に他人のごみ屋敷に困っている方を想定して、ごみ屋敷条例とはどういった内容で、自治体や周辺住民はどういった対応ができるのか、などについて大まかな説明をしてみたいと思います。

 

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ごみ屋敷とは?

そもそも「ごみ屋敷」とは何かについて確認しておきます。

「ごみ屋敷」という言葉は法律用語ではなく、はっきりとした定義が定められているわけではありません。

一般的なイメージとしては、ゴミだらけでどうしようもない状態になっている家のことですが、法令で規制するとなると厳密な定義が必要になります。

ごみ屋敷対策のための条例が定められている自治体の場合、ごみ屋敷の状態について、「不良な状態」や「不良な生活環境」、「管理不全な状態」などという表現が使われていることが多いようです。

具体的にどのような状態を意味するのかというと、例えば足立区では「不良な状態」を以下のように定義しています。

適正な管理がされていない廃棄物、繁茂した雑草又は樹木により、土地又は建築物の周辺住民の健康を害し、生活環境に著しい障害を及ぼし、又はそのおそれがある状態

出典:足立区生活環境の保全に関する条例2条3号

 

横浜市では「不良な生活環境」を以下のように定義しています。

物の堆積等に起因する害虫、ねずみ又は悪臭の発生、火災の発生又は物の崩落のおそれその他これらに準ずる影響により、当該物の堆積等がされた建築物等又はその近隣における生活環境が損なわれている状態

出典:横浜市建築物等における不良な生活環境の解消及び発生の防止を図るための支援及び措置に関する条例2条2号

 

また大阪市では「不良な状態」を以下のように定義しています。

物品等の堆積によりごきぶり、はえその他の害虫、ねずみ若しくは悪臭が発生すること又は火災発生のおそれがあること等のため、当該物品等が堆積している場所の周辺の生活環境が著しく損なわれている状態

出典:大阪市住居における物品等の堆積による不良な状態の適正化に関する条例2条1項

 

各条例によってごみ屋敷についての表現の仕方が異なり、「不良な状態」などの定義も多少異なりますが、大まかに見れば、一般的なごみ屋敷のイメージとだいたい同じような状態の家屋のことを指していると考えられます。

ごみ屋敷条例とは?

「ごみ屋敷」が法律用語ではなく、したがって「ごみ屋敷条例」あるいは「ごみ屋敷対策条例」というのも一般名です。

したがって、「ごみ屋敷条例」あるいは「ごみ屋敷対策条例」という名前の条例が存在しているわけではありません。

条例とは、地方公共団体が自主的に定める法令でその地域限定で効力があります。

『日本経済新聞』(2017.6.14 夕刊、8面)によると、ごみ屋敷対策のための条例を制定しているのは全国で約20市区とのことですが、これからも制定する自治体は増えてくると思われます。

正式名称は、各自治体の条例によって異なります。当ブログで独自に調査したところ、ごみ屋敷に対応した条例として把握できた条例は以下です。

  • 秋田市住宅等の適切な管理による生活環境の保全に関する条例
  • 郡山市建築物等における物品の堆積による不良な状態の適正化に関する条例
  • 八潮市まちの景観と空家等の対策の推進に関する条例
  • 足立区生活環境の保全に関する条例
  • 荒川区良好な生活環境の確保に関する条例
  • 清潔で美しい大田区をつくる条例
  • 品川区空き家等の適正管理等に関する条例
  • 新宿区空き家等の適正管理に関する条例
  • 杉並区生活安全及び環境美化に関する条例
  • 世田谷区住居等の適正な管理による良好な生活環境の保全に関する条例
  • 横浜市建築物等における不良な生活環境の解消及び発生の防止を図るための支援及び措置に関する条例
  • 豊田市不良な生活環境を解消するための条例
  • 京都市不良な生活環境を解消するための支援及び措置に関する条例
  • 大阪市住居における物品等の体積による不良な状態の適正化に関する条例
  • 神戸市住居等における廃棄物その他の物の堆積による地域の不良な生活環境の改善に関する条例

なお、報道によると名古屋市は近くごみ屋敷に対応した条例を制定する方針のようです。

ごみ屋敷条例で対処する場合

ごみ屋敷条例が制定されている自治体が、実際にごみ屋敷に対処する場合についてみてみましょう。

ごみ屋敷問題解決の流れ

ごみ屋敷の住民と、ごみ屋敷に困っている周辺の住民がお互いに話し合って解決するのが一番いい解決方法ですが、そうはいかない場合、周辺住民の方は行政に相談したり、苦情を訴えることになります。その後の手続きの流れは大まかに以下のようになります。

  1. 住民からの申し出(苦情・相談)
  2. 調査
  3. 指導・勧告
  4. 命令
  5. 行政代執行

自治体は周辺住民などからの申し出を受けて、立ち入り調査を行うなどして現場の状態を確認し、「不良」な状態であれば改善するよう指導勧告を行います。

ごみ屋敷の住人がそれに従わない場合は、命令を行います。住人が命令にも従わない場合は、行政代執行を行うという流れになります。

一連の流れの間には、審議会が設置されて審議されることもありますし、調査に応じなかったり、指導や勧告に従わなかった場合に氏名等が公表されることもあります。

また、ごみ屋敷の住人に対してごみ撤去のための経済的支援等が行われる場合もあります。

 

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行政代執行とは

ごみ屋敷条例における最終手段は、行政代執行です。

行政代執行とは、義務を果たさない住民に対して行政が強制的にその義務を履行して、かかった費用を徴収する制度です。

ごみ屋敷問題の場合は、ごみ等を撤去しない住人に対して行政が強制的に撤去して、撤去費用等を後から徴収することになります。

長年放置されたごみ屋敷に対する期待が高いと思われるのは行政代執行ですが、これはあくまで最終手段です。

人の生命、身体、財産に危害が及ぶ危険性が高く緊急の必要がある場合や、万策尽きて他に方法がないといったような場合にのみ行われるもので、実施するにはには多くのハードルがあります。

自治体は住民の自主性を最大限尊重しますので、強制力を伴う介入には消極的です。また、代執行の費用は自治体が立て替えて行いますが、それは大切な税金を戻ってこないリスクにさらすことをも意味します。

そういったことで行政代執行が行われるケースはたくさんあるわけではなく、その前段階で解決に至るケースもたくさんあります。

全国で初めて行政代執行が行われたのは京都市で、条例が施行されてから約1年後、はじめの相談から約6年後、市の職員らが120回を超える訪問を行った後のことでした。

以下はその時の様子の映像です。

周辺住民ができること

ごみ屋敷問題に直面する周辺住民の方ができることは、主に以下のことです。

  • ごみ屋敷の住人との話し合い
  • 町内会など自治会と連携して対処
  • 市役所(区役所)の窓口へ相談

いきなり強硬な手段をとるのは得策ではありません。

ごみ屋敷の住人と直接話し合って、それでごみ等の撤去に応じてくれればそれがベストです。まずはその道を模索してみることは大切です。

次に、1対1の話し合いでは難しい場合、町内会など住民の自治会(自治組織)と連携して解決にあたる方法があります。あくまで住民同士による解決を目指すことも大切です。

自治会などが存在しない場合や、自治会も手に負えない場合などは、行政(市役所など)へ申し出て相談ということになります。

行政が動いてくれれば、先の項目で説明した手続きの流れに沿った対応がなされることになります。

ごみ屋敷の住人が撤去に同意しても、撤去費用の捻出が難しい場合などは、自治会やNPO団体、ボランティアなどに片付けに協力してもらい、連携して対処する場合もあり、ケースバイケースの対処方法があります。

単にごみ屋敷を片付けるだけにとどまらず、再発を防止する環境を作る視点も大切になってきます。

さいごに

以上、ごみ屋敷条例の大まかな内容と、自治体や周辺住民がとれる対応などについてでした。

ごみ屋敷条例はどの自治体にも制定されているわけではありません。

お住いの地域の自治体がごみ屋敷に対応した条例を制定しているかどうかは、「市区町名 ごみ屋敷条例」で検索すると、たいていの場合わかります。

条例を制定していなくても、各自治体はごみ屋敷に対する何らかの対処方法は考えているはずですので、窓口に相談されるとよいでしょう。

ごみ屋敷が生まれる背景には、様々な問題が複雑に絡み合っているだけでなく、ケースバイケースで原因も異なってきます。一筋縄ではいかないことが多いため、粘り強い対応が求められます。

 

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