仮想通貨に関する法律については、2017年に最初の改正がありました。
2017年改正法施行後は、仮想通貨交換業者が管理する仮想通貨が流出する事件が起きたり、仮想通貨が投機目的で多くの取引がなされたりしました。
そのため、仮想通貨交換業者等の管理に対する規制や、投資家保護のための規制の必要性等が議論されはじめ、2019年5月31日に2度目の改正法案(情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案)が国会で可決成立しました(公布日である2019年6月7日から1年以内に施行予定)。
この記事では、2度目となる仮想通貨(暗号資産)についての法律改正の要点について説明していきたいと思います。
細かな点を逐一確認していくと膨大な時間と労力がかかりますが、要点を俯瞰することにより、短時間で大まかなイメージをつかんでいくことを目的として要点をまとめてみました。
Contents
2017年改正法のおさらい
2017年改正法以前の日本の法律は、仮想通貨についての規定がありませんでした。
2017年の改正では、仮想通貨を新たな概念として定義し、仮想通貨交換業についての規定が設けられました。
すなわち、
- 仮想通貨の定義
- 仮想通貨交換業者の定義
- 仮想通貨交換業者の登録義務付け
などが主な内容で、資金決済に関する法律(資金決済法)の改正が中心でした。
2019年改正法のポイント
冒頭でも触れたとおり2019年の改正は、仮想通貨流出事件の問題、投機目的の取引が多く行われていることや、国際情勢を踏まえて仮想通貨の呼称の変更などの議論も焦点になりました。
仮想通貨に関する2019年改正法は、以下の法律の改正が主な内容になります。
- 資金決済に関する法律(資金決済法)
- 金融商品取引法(金商法)
- 金融商品の販売等に関する法律(金融商品販売法)
2017年改正は資金決済法の改正が中心だったのに対し、2019年改正は資金決済法だけでなく、金商法、金融商品販売法の一部も改正されています。
それぞれの法律について、次の章から説明していきます。
ちなみに、仮想通貨(暗号資産)法という名の法律はなく、上の3つを含む複数の法令に仮想通貨(暗号資産)についての規定があり、それらをまとめて巷では仮想通貨(暗号資産)法と表現されることがあります。
資金決済に関する法律(資金決済法)の改正
仮想通貨に関する資金決済法改正のポイントは以下です(条文番号はすべて改正後のものです)。
- 「仮想通貨」を「暗号資産」に変更(1条、2条5項等)
- 暗号資産交換業の定義に管理業務を追加(2条7項4号)
- 暗号資産交換業者の登録の規制強化(63条の5第6号、9号、10号ニ)
- 暗号資産交換業者の広告規制を新設(63条の9の2)
- 暗号資産交換業者等の禁止行為を新設(63条の9の3)
- 信用を供与して暗号資産の交換等を行う場合の情報提供の規定を新設(63条の10第2項)
- 暗号資産交換業者の利用者財産の管理についての規定を新設(63条の11、63条の11の2)
- 暗号資産交換業者が管理する暗号資産に対する利用者の優先弁済権等の付与(63条の19の2、63条の19の3)
主な内容について簡単に説明します。
「仮想通貨」から「暗号資産」に呼称が変更されました。定義規定に変更はありませんが、金融商品取引法で暗号資産の定義から「電子記録移転権利」は除外されました。
暗号資産交換業の定義に管理業務(カストディ業務)が新たに追加され、暗号資産交換業者が行う利用者財産の管理については、利用者の金銭を分別管理することなどが義務化されました。
暗号資産交換業者が管理する暗号資産に対する利用者の優先弁済権等の規定も新設されました。
暗号資産交換業者の登録に関しては、登録拒否事由が追加されたことにより、登録の規制強化がなされました。
暗号資産交換業者への広告規制として、一定の情報を表示する義務や、契約締結や勧誘時の禁止行為(虚偽表示等)が規定されました。
金融商品取引法(金商法)の改正
金融商品取引法(金商法)改正の主なポイントは以下です(条文番号はすべて改正後のものです)。
- 「金融商品」の定義に「暗号資産」を追加(2条24項第3号の2)
- 暗号資産を金銭とみなす規定の新設(2条の2)
- 暗号資産のデリバティブ取引関連業務に関する特則の新設(43条の6)
- 「電子記録移転権利」を第1項有価証券とし、企業内容等の開示制度の対象とする(2条3項、同8項、3条3号)
- 電子記録移転権利の売買等を業として行うことを第一種金融商品取引業の規制対象とする(28条)
- 暗号資産のデリバティブ取引や資金調達取引を業として行う場合の金融商品取引業の登録等の規定を新設(29 条の2、29 条の4、31 条)
- 暗号資産の取引等に関する不公正な行為の禁止規定の新設(185 条の22~第185 条の24)
主な内容について簡単に説明します。
暗号資産を金融商品の定義に含める規定、暗号資産を金銭とみなす規定が置かれました。
そして、暗号資産のデリバティブ取引関連業務に関する特則として説明義務等の規定が新設されました。
また、暗号資産の売買やデリバティブ取引等に関しては、インサイダー取引、相場操縦、その他不公正行為の禁止について規定されました。
金融商品の販売等に関する法律(金融商品販売法)の改正
金融商品の販売等に関する法律(金融商品販売法)改正の主なポイントは以下です(条文番号は改正後のものです)。
- 「金融商品の販売」の定義に「暗号資産」を「取得させる行為」も含める(2条1項6号)
暗号資産を取得する顧客の保護が強化されました。
暗号資産交換業者等に重要事項についての説明義務を課すことにより、勧誘の適正を確保するとともに、説明をしなかったことによって顧客に損害が生じた場合の損害賠償責任を規定し、損害額を推定するなどして、損害賠償責任を問いやすくなりました。
その他
以上、要点を簡潔に説明してきましたが、より詳しい概要等については、金融庁の以下の資料をご参照ください。
https://www.fsa.go.jp/common/diet/198/02/setsumei.pdf
https://www.fsa.go.jp/common/diet/198/02/youkou.pdf
また、前の項目まで取り上げなかった法律も含めて、今回改正されたすべての法律の新旧対照表は以下の資料で確認できます。
https://www.fsa.go.jp/common/diet/198/02/shinkyuu.pdf
おわりに
以上、暗号資産に関する2019年の法律改正について簡単に説明してきました。
仮想通貨から暗号資産に呼び方が変わったことや、暗号資産管理業務の規定追加、暗号資産の取引が金融商品取引法の規制対象になるなど、大きな変化があります。
一般顧客の立場からは、取引の健全化や顧客保護の実効性などに期待したいところです。