ほとんどの世帯で支払っていると思われるNHKの受信料。
「払わなければいけない」、「いや必ずしも払わなくてもよい」といったことで、ときどき議論になっているのを聞くことがあります。
たしか、高校や大学にもNHKの受信料に異を唱える先生がお一人はいらっしゃったような気が・・・。
そんなNHKの受信料ですが、法律的にはどのようになっているのでしょうか。
この記事では、NHKの受信料に関する法律問題を中心に説明していきたいと思います。
受信料の根拠は、調べていくと少し特殊なもののようです。なぜ特殊なのかはNHKが設立された歴史的背景にも原因がありようで、けっこう興味深いものですが、この点については最後のほうで紹介します。
ちなみにこの記事では、受信料の根拠についての関心から書いていますので、受信料の是非については議論しません。
Contents
受信料支払いの根拠は?
NHKの受信料の根拠とされるのは、放送法(64条1項本文)です。
この規定は「受信設備を設置した者」は、NHKと「契約をしなければならない」と規定しています。
「受信設備」とは、家庭用・携帯用・自動車用・共同受信用受信機等で、NHKの放送を受信できる設備のことをいいます。
「設置」とは、使用できる状態におくことをいいます。
これらは地上波放送の地上契約、BS放送の衛星契約共通です。
ということは、テレビなどを固定していなくてもテレビが観れる携帯電話やスマホをもっているだけで地上契約の対象者になりますし、マンションなどでBSアンテナが立っていて部屋にBSチューナーがついたテレビがあって受信できる状態ならば、衛星契約の対象者になりますね。
そして、契約は受信規約に書かれたことを内容とするものになり、受信機を設置の日から受信料の支払い義務が生じます。
追記:2016年8月にさいたま地裁にて、ワンセグ機能付きの携帯電話の所持者は「受信設備を設置した者」に当たらないとの判断がなされました。また、2017年5月には水戸地裁でワンセグ機能付き携帯電話所有者の受信料支払義務について肯定の判断がされました。しかし両裁判は継続中です。
整理すると
受信料の根拠は、
- テレビなどの受信設備があれば契約を結ぶ義務がある(法律上の義務)
- 契約を結べば受信料支払いの義務がある(契約上の義務)
という二段階の論理になります。
つまり、契約を結んではじめて受信料を払う義務が発生します。逆に言うと契約を結んでいなければ、受信料を払う義務はありません。
もう少し掘り下げます。
1.(法律上の義務)については、テレビを観ることができる機器を受信できる状態にすれば、放送法上契約を結ぶ義務が発生しますが、この規定に罰則はありません。
2.(契約上の義務)についての支払い義務は、契約上のものです。NHKとの契約は、民事上のものになります。
以上のように、受信料に疑問をもつ方は、1.と2.どちらの段階にあるか、つまり契約を結ぶ前か、結んだ後かを意識したほうがよいでしょう。
法律上の問題点
では、以上二つの点にどんな法律上の問題点があるのでしょうか。
1.(法律上の義務)について
対象者であるにもかかわらず、契約を結ばなかった場合は放送法違反になります。この規定に罰則はありませんが、この点について裁判で争われました。
本来契約というのは、申し込みと承諾というお互いの意思が合致して成り立つものです。
それに関連して、NHKが対象者に意思表示しただけで(相手が承諾していなくても)契約が成立するのかが争われた裁判があり、裁判官の判断は裁判によってまちまちでした。
しかし、2017年12月6日に最高裁大法廷判決が出たことで一応の決着が図られました。この点について最高裁判決は以下のように判断しています。
受信契約の申込みに対して受信設備設置者が承諾をしない場合には,原告がその者に対して承諾の意思表示を命ずる判決を求め,その判決の確定によって受信契約が成立すると解するのが相当である。
つまり、NHK側からの一方的な意思表示のみでは契約は成立せず、承諾しない相手に対して裁判を起こし、勝訴判決が確定してはじめて契約は成立するということです。
仮に判決確定による契約が成立した場合、受信設備の設置の月からの料金債権が発生することになります。
この判断は、契約の成立について曖昧にされがちだった受信料の契約・収納の現場に、少なからぬ影響があるものと思われます。
2.(契約上の義務)
すでにNHKと契約を結んでしまっているのに支払わない場合は、放送法違反ではなく契約違反になります。
NHKが受信料滞納者に支払って欲しい場合は、一般人同士の契約と同じように民事裁判を起こすしかありません。
滞納していると、最終的には裁判所による強制執行が行われる可能性があります。
NHKは国営か民営か?
NHKのサイトによると、NHKは「政府から独立した公共放送事業体」と表現されています。
NHKは日本放送協会(nippon(nihon) housou kyoukai)の略で、特殊法人とされています。
特殊法人というのは、公共的性格をもつ事業を行うために特別の法律に基づいて設立される法人のことをいいます。特殊法人は行政機関ではありませんが、行政管理庁の審査対象になる法人です。
NHKは放送事業という公共的性格をもつ事業を、放送法という法律に基づいて設立され、総務省という行政管理庁の審査対象になっています。
特殊な歴史的背景
戦前、NHKは民法上の社団法人であり、非政府機関でした。
しかし、戦後の改革で制定された放送法によって現在の日本放送協会の設立手続きが進められることになり、戦前の社団法人は解散されることになりました。
もっとも旧NHKの権利義務は新NHKに承継されたわけですが、アメリカ側の意向と日本側の意向に微妙なすれ違いが生じました。
アメリカ側は政府から独立した機関を想定していたのに対し、日本側は最終的に公共企業体として理解し、それ以上詰めなかったという経緯があるようです。
このようにことになった背景には、アメリカ法は公法上の法人格理論がドイツ法のように堅固ではなかったことと、日本側は法人論が流動的な状態であったことが指摘されています(参考文献『変動する日本社会と法』有斐閣、363~389頁(塩野宏「放送受信料考」))。
このような背景があって、特殊法人という民営でも国営でもない、文字通り特殊な形になったと考えられます。
受信料の規定についても法案の段階では、視聴者が受信設備を設置した場合、
- 受信料を徴収することができる
- 受信についての契約を締結したものとみなす
- 受信についての契約をしなければならない(現規定)
のように、1.~2.の順番を経て3.の現在の規定になったという経緯があるようです(参考文献:天野聖悦『NHK受信料制度違憲の論理』東京都図書出版会、46~51頁)。
制定過程にはまだ明らかになっていないこともあるようですが、受信料の徴収については当初の法案から徐々に弱い規定になっていった過程があったというのは興味深い点です。
さいごに
現在のNHKができるまでの特殊な背景があり、専門家の間でも必ずしも明確になっていない問題もあるようです。
ですから、私たち一般人にもわからない点があって当然です。
特殊な存在であり、受信料についても特殊な形です。
受信料についてはいろいろな意見が出ていますが、視聴者・NHK相互によりよい状態になっていって欲しいですね。
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民法上の契約自由の原則だかについても述べた方がいいのではないですか?
放送法なんぞより上位の法律じゃなかったでしたっけ?
コメントありがとうございます。
この点についてNHKは以下のページで、契約自由の原則についての見解を示しています。
https://pid.nhk.or.jp/jushinryo/text/toiawase2.html
また、地裁・高裁レベルの裁判例で、契約自由の原則の根拠となる憲法には反しないと判示したものがいくつかあるようです。
異論を感じる余地はあると思いますが、なかなか難しい問題です^^;