家にテレビがなくてもワンセグ機能が付いた携帯電話やスマートフォンを持っていれば、NHKの受信料を支払う義務があるかのでしょうか?

このように問われると、自信をもって答えることができる方は少ないかもしれません。

この問題を巡って裁判が行われており、さいたま地裁は2016年8月に否定の判断をしました。正確には、契約を締結する義務はないという判断です。

一方で水戸地裁では2017年5月に、ワンセグ機能付き携帯電話所有者の受信料支払義務について肯定の判断をしました。

しかしながら、これらの裁判はまだ続いていて、そのゆくえが注目されています。

この記事では、ワンセグ携帯訴訟で問題となっている点や裁判のゆくえなどについて考えていきたいと思います(追記:2017年12月6日の最高裁大法廷判決(受信契約締結承諾請求事件)ではワンセグ機能付き携帯電話については触れられていません)。

 

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問題となっている点

訴訟で問題となっている点についておさらいしておきます。

受信料の根拠

放送法64条1項本文は以下のように規定しています。

協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。

要するにNHKの放送を受信することができる機器を設置した人はNHKと契約を結ばなければいけないという規定です。

契約を結ぶと受信料を支払う義務が発生しますから、契約を結ぶこと、イコール受信料を支払わなければいけないということですね。

このあたりの詳しい説明については以下の記事に書いていますので、よろしければ参考にしてください。

NHK受信料の支払い拒否は違法?法律的な問題をわかりやすく!

 

NHK受信料

ワンセグとは

ワンセグとは、持ち運び可能なモバイル端末で地上デジタルテレビ放送が視聴できるサービスです。

したがって、ワンセグ携帯はNHKの放送が受信できることから、上記法律の「受信設備」にあたると解釈できます。

所持するのは「設置」?

NHKは公式ページで携帯電話に限らずワンセグ搭載機器(パソコン、カーナビなど)は受信契約の対象になると記載しています。

問題となっているのは、ワンセグ携帯を所持することが上記条でいうところの「設置した」といえるかどうかです。

NHKは公式サイトで明確に記載していないものの、裁判では「携帯」も「設置」に含まれるとの主張が行われました。

しかし、ワンセグ携帯を単に所持していることが、「設置」にあたると考えるのは普通に考えて違和感があります。

この点について、さいたま地裁は「設置」に「携帯」は含まないとの判断を下しました。

理由として、放送法2条14号は「設置」と「携帯」を区別して規定していることから、「設置」の中に「携帯」の意味を含ませることは文理解釈上無理があることがあげられています。

このようなことから、ワンセグ携帯を所持しているだけでは、契約を結ぶ義務はないと判断されました。

一般の感覚からしても、設置は備えつけること、携帯は持ち運ぶことという意味に使われることが多いと思いますので、両者は別の意味ととらえられていることが自然です。

このような判断がなされましたが、NHK側は控訴していますので、この訴訟は上級審へ持ち越しとなっています。

どうなるの?

裁判は今後どのようになっていくのでしょうか。

NHKのサイトでは、ワンセグ携帯を所持することが放送法64条1項の「設置」に当たると明確に記載していないにしても、ワンセグ携帯を所持しているだけで契約を結ぶ義務があるという前提で動いてきたことが伺えます。

今後の上級審の判決内容によっては、社会的にも非常に大きな影響が出ることが予想されます。

以下場合分けをして考えてみましょう。

契約を結ぶ義務なしの場合

ワンセグ携帯を所持するだけでは契約を結ぶ義務はないとの判断がされた場合、どのようなことがかんがえられるでしょうか。

ワンセグ携帯を所持しているだけで契約を結ぶ義務があると思って、あるいはそのように説明されて契約していた人も一定数存在することでしょう。

そのように契約した人は、法律の解釈を誤って結ぶ義務のない契約を結んできたということになってしまいます。

そうだとすると、これまでのNHKとの契約は無効なので、受信料の返還を請求してほしい訴える人が多数出てくることが予想されます。

NHKがこれらに対応するのは多くの手間がかかる上、過去の受信設備の設置状況などを証明することは難しい面があります。

しかも返還するとなると相当な額になって、NHKの経営にも大きな影響が及ぶかもしれません。

ですから、NHKにとっては結構な打撃になるでしょう。

 

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契約を結ぶ義務ありの場合

では逆にNHK側の主張が認められた場合はどうでしょうか。

まずは、「設置」と「携帯」を混同することは、やはり日本語して無理があると裁判所に対する批判がなされるでしょう。

またテレビが家に無く、観るつもりがないのにワンセグ機能がついているという理由だけで携帯やスマホの所持を理由に受信料を支払わないといけないのはおかしい、という不満の声が強くなって、妥当性の議論が再燃することが考えらえます。

それに付随して、時代錯誤といった批判や、NHKやテレビの不要論、契約締結自由の原則との関係など他の訴訟で問題になっている論点などについての議論にも飛び火する可能性も考えられます。

なるべくなら受信料は払いたくないという人が多いでしょうから、払わない方向で議論を進めようとする声が大きくなっていく可能性があります。

どんな結論になるのか

結論がどちらになっても、マスコミなどで大きな話題として取り上げられることは避けられないでしょう。

いずれにしろ、さいたま地裁の判決のように、ワンセグ携帯を所持することが受信設備を「設置」することにあたるというのは文理解釈上無理があます。

ですから上級審でもこの点についてはNHKの主張を全面的に認めない可能性があります。そして、放送法64条1項の文言の改正を促すような結論にするというのが一つの方向性としてありえるのではないでしょうか。

裁判所は立法機関ではありませんから、法律を変えることはできません。

司法・立法・行政という三権分立制度の下では、裁判所が法律を変えたいと思っても、せいぜい法律改正を国会に間接的に促すということしかできません。

仮にその方向になったとしても国会がその通りに動くかどうかはわかりませんが。

さいごに

裁判所が何らかの判断をする際には、なるべく世の中に大きな混乱が生じないように配慮するはずです。

ですから、仮にワンセグ携帯を持っているだけでは契約を結ぶ義務はないとの判断をするにしても、これまで支払ってきた人たちが返金を求めて殺到するというように、何らかの配慮がなされるのではないかと思います。

実際どういった判断がなされるのか、とても興味深いところです。要注目です。

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